女の子を殺したのは本当に死刑囚だったのか ドキュメンタリー映画『正義の行方』 登場人物それぞれの“真実”
そして、西日本新聞は当時、警察の動向をいち早くスクープし続けました。しかし、DNA鑑定が揺らでしまった中、かつての自分たちの報道そのものについての再取材も始めています。 弁護団、警察、報道。この三者のそれぞれの正義が映画で示されます。
十字架を背負ったスクープ
映画に登場して、苦渋の表情を浮かべている西日本新聞の当時の事件担当、傍示文昭さん(現・テレビ九州専務取締役)もトークショーに出席していました。傍示さんは「十字架を背負い続けてきた」と話しました。 傍示さん:1992年8月16日の朝刊で、「重要参考人浮かぶ」というスクープを放って以降、言うなれば”重い十字架”を背負い続けてきた。誤報ではないんですけれども、今振り返っても、あのタイミングで打つべきではなかった記事を書いて、それ以降裁判が進み、死刑が確定し執行されても、十字架が常に背中に乗っているわけですね。 いち早くスクープを打つのは、警察担当記者の宿命です。西日本新聞で特ダネを取ってきた記者・宮崎昌治さん(現・テレビ西日本取締役)はこう話します。 宮崎さん:(1994年9月、逮捕の直前に)「新証拠裏づけ終わる」という原稿を書いた日のことは、克明に覚えています。サツ回りで警察の情報をいち早く取って、他社に先駆けてスクープすることを最上の価値観として、長く記者をやってきました。 宮崎さん:だけど一方で長く記者をやってきて、いろいろな取材を進める中で、一つの正義に寄りかかるのではなく、正義を相対化する作業こそがジャーナリズムだ、と。まだなかなかうまく実践はできてないかもしれませんけど、一つのゴールとしてはそういうことだったんだろうなと思えるようになった。それを、改めてこの映画を作っていただいて再認識できた。非常に木寺さんに感謝しています。
「警察という一つの正義に寄りかかるのではなく、正義を相対化する作業こそがジャーナリズムだった」ということを今、自分のゴールとして受け止めている、と宮崎さんは話していました。やっとこういう時代になってきたなという気がしました。 警察発表に肉薄するのは記者の宿命だし、役割なのですが、それだけでは本当に正しいものかどうかという検証はできません。西日本新聞さんの素晴らしいところは、そうやってスクープを取り続けてきた自分たちをも、取材の対象として検証作業を続けてきたことです。