女の子を殺したのは本当に死刑囚だったのか ドキュメンタリー映画『正義の行方』 登場人物それぞれの“真実”
警察、弁護側、報道機関「三者三様」の正義
監督の木寺一孝さんは2023年にNHKを退職し、福岡市の映像プロダクション「ビジュアルオフィス・善」で制作を続けています。4月28日、福岡市の映画館でトークショーがありました。 木寺一孝監督:東京だと、ほとんど飯塚事件は報じられていません。しかも、死刑が執行された後の再審請求が行われている。本当にびっくりしまして、「こんなことがあるのか?」と。それで福岡の岩田務(飯塚事件弁護団)主任弁護人のところに行って取材が開始された、という流れです。その時に「自分たちが再審をもっと早く準備していたら、もしかしたら久間さんの執行はなかったかもしれない。自分たちが久間さんを殺したんだ」という強い言葉を聞いて、ショックと言いますか、「弁護士はこんなことを感じながら弁護をやってらっしゃるんだ」と。それがまず1つです。 木寺監督:しかしNHKがなかなか提案を通してくれなくて。死刑執行されたケースを取り上げるという、やはりハードルが。上司から言われたことは今でも覚えているのですが、「この提案が何を意味するか、わかってんのか」「日本という国が揺らぐんだぞ、法治国家が揺らぐ話なんだぞ」「お前、ちゃんとわかって覚悟を持って提案しているのか」と言われました。 木寺監督:その後出会ったのが西日本新聞の方々で、自分たちのスクープを検証し、正しかったのだろうかという議論の様子も連載に書いてらっしゃって、「メディアも葛藤をもって飯塚事件に向き合ってらっしゃるんだな」と。 「日本という国が揺らぐ」ということを考えて作らなければいけなかった映画です。弁護団は「自分たちが久間さんを殺したのではないか」という自責の念を持っているわけですね。
一方で、刑事たちも殺された子供たちの無念を晴らすため、必死で捜査に取り組んでいます。この映画の中では、元刑事たちの言葉がいっぱい出てきます。異例のインタビューと言っていいでしょう。さまざまな状況証拠から、かつての刑事たちは今も「久間元死刑囚が犯人だ」と言い切ります。