「肌の色による差別はなぜよくないのか」…明確な理由を説明できるようになる「フランスでの教え方」
ルーツや国籍、言語が異なる子どもが多いフランスにおいて、人種差別の問題は学校の「公民道徳教育」で取り上げる大きなテーマです。一方で、日本での差別問題に対する意識はまだそれほど高くなく、授業においても不足している点がある…こう語るのは、日本在住のフランス人ジャーナリスト・西村カリン氏です。同氏の著書『フランス人記者、日本の学校に驚く』(大和書房)から一部抜粋して、フランスと日本の人種差別に対する捉え方や授業の違いについてご紹介します。
人種差別にピンとこない日本
フランスでは人種差別の問題も「公民道徳教育」で取り上げる大きなテーマだ。 2013年にアメリカでBLM(ブラック・ライブズ・マター)が話題になった。2012年のアフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為をきっかけに始まった人種差別抗議運動のことだ。フランス・パリ郊外でも2023年6月、17歳の北アフリカ系の少年が警察官に射殺された事件をきっかけに、各地で警察に対する抗議運動が暴動へと発展した。 日本人には、こうした抗議運動が起こることの意味が今ひとつピンとこないのではないだろうか。ルーツや国籍や言語が異なる子どもが多いのが、フランスの学校の特徴の1つだ。一方、日本では人種差別を経験したことがない人は多い。有色人種にもいろいろあるが、ここでは黒人差別について触れていく。 わたしが昔、住んでいたブルゴーニュ地方の小学校では、黒人の子どもの割合は30人クラスで1人か2人だった。現在のパリ郊外の一部の小学校では黒人の子どもの割合が増え、地域によってはクラスの半分、あるいはそれ以上のところもある。 黒人と白人は肌の色だけでなく、口の形、耳の形、鼻の形など目立つ違いが多い。当時は、「これは鼻ですか? それともサングラスですか?」といったジョークを言う人もいた。テレビ番組でも”ユーモアリスト”と呼ばれる人たちはそのような言い方を好んで使った。 こうしたジョークで大人たちが笑っていたため、子どもたちも学校で同じことを言って笑った。差別的な発言だとは知らなかったのだ。成長するにつれて、それが黒人の人たちにとっていかにつらいか、なぜ言ってはダメなのかがわかってくる。 子どもの頃から日常的にこうした経験をすることは、日本人の子どもと大きく違う点だろう。今、日本に黒人の子どもがまったくいないことはないが、少ない。500人の学校に1人くらいではないだろうか。 差別とは何なのか。たとえば、違いを指摘するだけで差別なのか、そうでないのか。「黒人は肌が黒い」と言ったら差別なのか。それとも単純な事実を言っているだけと見なされるのか。その線引きは難しく、まして学校でそれを教えるのは本当に難しい。 フランスは植民地支配や奴隷制度の歴史があり、「白人のほうが頭がいい」「白人のほうがお金がある」「白人のほうが安定している」というイメージが今も残っている。右翼の政党はいまだ、白人と黒人では能力の違いがあると確信している。 でも、人種差別は憲法で禁止されているのだ。人種差別発言をすると、大人なら刑務所に行くこともある。