筋肉の進化を追う――動作を司る「骨格筋」は速さ・強さ・再現性を求めた
筋肉は平滑筋→斜紋筋→横紋筋と進化した
このように考えると、平滑筋のほうが原始的な筋肉であり、より素早くパワフルで再現性の高い動作が必要になったことで、それが骨格筋に進化していったととらえるのが自然でしょう。 では、平滑筋から骨格筋への進化は、いつ、どの段階で起こったのでしょうか。 進化をさかのぼっていくと、魚類には哺乳類と同様の横紋筋を見ることができます。両生類、爬虫類、鳥類も同様。骨格筋は文字通り骨につながっている筋肉なので、生き物の体に骨格というものができると同時に、それを効率よく動かすための工夫として横紋構造とその機能ができあがったと考えられます。 エビ・カニなどの節足動物や昆虫の筋肉も横紋筋ですが、これらの動物は外骨格を持っています。 過渡的な筋肉として、斜めの縞模様が入った「斜紋筋」というものがあります。 これはゴカイやミミズなどの環形動物やセンチュウなどの線形動物の体壁筋に見られます。長軸方向に見る角度によって横紋筋のように見えたり平滑筋のように見えたりするので、横紋筋と平滑筋の中間的な特徴を持つ筋肉と言えるでしょう。 軟体動物であるイカの胴体(外套膜)の壁も斜紋筋でできています。これらの生き物の体は「静水圧骨格」と呼ばれ、袋の中に水が入っているような構造になっています。筋肉の力に対して体内の水圧が拮抗的な働きをし、袋状の体を締めたり緩めたりすることで移動します。イカが逃げる際のジェット噴射もその仕組みを利用したものですが、この場合にも同期した素早い収縮が必要になります。 このように体そのものを柔軟に使って動くためには、骨格筋のように規則正しいしっかりした構造よりも平滑筋的なファジーな収縮が求められます。しかし一方で、敵から急いで逃げるような時には骨格筋に要求されるようなスピードが必要です。両方の特徴を兼ね備えるために、これらの生き物には斜紋筋という中途半端な筋肉が残ったのでしょう。 あらためて進化の順に追っていくと、まずは平滑筋から斜紋筋になり、さらに動作の再現性や力強さを求められたことで、斜紋筋が横紋筋になっていったと考えられます。