「本当に奇跡が起きるとは…」 奇跡のフェス「バーニングマン」で災害級の豪雨(後編) 砂漠で身動き取れず でも脱出できたのは「与え合い」のおかげ
何もかも常識外れの音楽フェス「バーニングマン」に、初参加の私もどっぷりつかっていた。しかし、そんな楽しい時間に文字通り暗雲が立ちこめたのは、来てから6日目、9月1日金曜日の午後だった。 この時期、ほとんど雨が降らないはずの砂漠に雨が降り始める。多少の水分なら砂が吸収してしまうが、ひとたび限界を超えると、砂はこれまでに見たことのない、つきたての餅のような粘着質の泥に変化する。数メートル歩くだけで、両足は泥の固まりとなり、足の底にも泥がどんどん吸着するため、背が高くなっていく。こうなると自転車も車も移動は不可能だ。 車の移動は禁じられ、場内のラジオは「動き回らず、暖かい場所にとどまってください。周りを見渡し、助けが必要な人がいたら手を差し伸べてください」との案内を繰り返すようになった。 土曜日の午後に会場を出るバスで日本への帰国を予定していた私としては、かなり困った展開である。テントの周りは既に水浸しになっている。なんとか早く雨がやんでくれるように祈りながら寝たが、打ちつける風雨は無情にもさらに強まり、夜中に嫌な予感で目が覚めると、ついにテントの床もじわじわと浸水が始まっていた。(共同通信=井手壮平)
【※この記事は、記者が音声でも詳しく語っています。共同通信Podcast「きくリポ」を各種ポッドキャストアプリで検索してください→奇跡のフェス「バーニングマン」(後編)豪雨でぬかるんだ砂漠から、文字通り〝奇跡〟の脱出】 ▽錯綜した情報 幸い、翌土曜日の朝には雨はほとんどやんでいたが、道路の冠水はさらにひどくなっている。通行止めも続いており、予定通り帰国することは絶望的な状況だ。グループで行動しているため、水や食料には余裕がある。だが、携帯電話の電波はもともと圏外のため、予定変更を家族や職場、航空会社に知らせる連絡手段はない。 通信は頭の痛い問題だったが、なんと隣のキャンプがウクライナでも活躍したスターリンク(イーロン・マスク氏が打ち上げた人工衛星を使った通信サービス)を使っており、わざわざパスワードを教えに来てくれた。これで飛行機の予約変更などは解決し、あとは1日でも早く大地が乾き、バスが出るのを待つしかない。