活性化の起爆剤か、迷惑施設か…さびれゆく山間の町に降ってわいた弾薬庫整備計画 官民挙げて積極誘致の一方で、情報少なく見えない将来像に不信募らす住民も
防衛省がさつま町で弾薬庫(火薬庫)整備を検討する方針を地元に伝えてから20日で1年となる。候補地の中岳周辺(永野、中津川)では適地調査が進められ、自衛隊施設誘致を働きかける関係者は整備決定を期待する。一方、突如浮上した計画と受け止める住民は不信感を持ち、国や町に積極的な情報発信を求める声が上がる。 【写真】適地調査範囲のイメージ
整備に反対する「弾薬庫問題を考える会」の男性(79)=同町広瀬=は、上野俊市町長と宮之脇尚美議長との連名で防衛省に出された施設誘致請願書(2021年12月14日付)の内容に驚いた。 中岳、紫尾山、鶴田ダム西南斜面を候補地に挙げ、立地が考えられる施設として野外訓練場や弾薬庫、中距離弾道ミサイル(IRBM)配備施設、オスプレイ発着場などを提案していた。 公文書開示請求し今年1月、初めて知った。男性は「賛否や意見が分かれる問題。町や防衛省は情報開示を徹底し、町民が考える機会をつくるべきだ」と語気を強める。 町では人口増や交付金による地域活性化を期待し、商工会を中心に主要団体でつくる「町防衛施設誘致推進協議会」が18年に発足。町長や全町議も活動に賛同して官民で誘致を進めた。 ■ ■ 「自衛隊歓迎」「弾薬庫はいりません」。町内では賛否を訴えるのぼり旗や看板が目立つようになった。 関心の高まりがうかがえる一方、中岳から十数キロ離れた町中心部(宮之城地区)に住む自営業の40代男性は「世間の目を気にして話しにくい状況もあるのだろうが、弾薬庫が同世代の間で話題に上ることは少ない」と明かす。
これまで同省による説明会は、中岳近隣の薩摩地区住民を対象にした3月の1度だけ。当日の資料や質疑は町ホームページで公開しているが、鶴田地区の70代女性は「資料は分かりにくい。担当者に直接話を聞きたい」と訴える。 ■ ■ 国は本年度当初予算に適地調査費として2年分の10億円を計上。地質や水質、環境などの調査について計画通りに進捗(しんちょく)しているとする。一方で適地として判断する時期や、地元が期待する施設整備に伴う交付金などについては明らかにしていない。 住民説明会を巡っては薩摩地区以外の町民に加え、薩摩川内市や霧島市など周辺自治体からも開催を要望する声が上がる。同省は取材に「丁寧な説明や適切な情報共有は大変重要。地元自治体と緊密に連携し適切に対応する」と答えた。 誘致推進協会長代行の男性(56)は、少子高齢化や物価高騰を受け、町内の各業界は「疲弊するばかり」と指摘。弾薬庫整備が決まれば「地域振興への励みになる。可能な範囲で調査の進捗など、節目の情報発信に努めてほしい」と要望した。
南日本新聞 | 鹿児島