アムステルダムで「反ユダヤ」主義の襲撃が吹き荒れる…襲撃者は「暴力行為」の動画を誇らしげにSNSで公開
<1938年にドイツ各地で反ユダヤ主義暴動が発生した「水晶の夜」の悪夢を彷彿させるような事件がオランダのアムステルダムで発生>【木村正人(国際ジャーナリスト)】
[ロンドン発]アンネ・フランクの家があるオランダの首都アムステルダムで、UEFA(欧州サッカー連盟)ヨーロッパリーグのアヤックス対マッカビ・テルアビブFC戦(11月7日)の応援にきていたイスラエル人サポーターが襲撃され、20~30人が負傷する事件が起きた。 【動画】閲覧注意:暴徒たちは暴力行為の動画を誇らしげにSNSに公開 パレスチナ自治区ガザではイスラエルの無差別攻撃で約4万3500人が死亡、約10万2700人が負傷し、1万人以上が行方不明になっている。ピュー研究所の調査では16年時点で欧州のムスリム人口は2577万人に達しており、反イスラエルのマグマは爆発寸前にまで高まっている。 一方、11月9日は1938年にドイツ各地で反ユダヤ主義暴動が発生、ユダヤ人の居住地域やシナゴーグが次々と襲撃された呪われた日、「水晶の夜」として記憶される。米大統領選ではあからさまな親イスラエル派のドナルド・トランプ前大統領が復活しただけに緊張は一段と高まる。 現地からの報道によると、親パレスチナ派はイスラエルのクラブとサポーターがアムステルダムに来ることに抗議するため、11月7日にデモを計画していた。前日の6日夜、イスラエルのサポーターがパレスチナ国旗を燃やし、タクシーを破壊した。 ■抗議デモ実施の発表を受けて素早く厳戒態勢をとった警察 タクシー運転手がネットで動員をかけたことを察知した地元警察はカジノにいた数百人のイスラエル人サポーターを保護するため素早く動いた。「水晶の夜」の呪われた記念日が近づく中、親パレスチナ派の抗議デモが行われることが発表されたため、警察は厳戒態勢をとった。 試合当日、イスラエル人サポーターがムスリムに対する侮蔑的、敵対的なフレーズを繰り返しながら行進した。騎馬警官と機動隊が親パレスチナ派とイスラエル人サポーターの間に入り、衝突を防いだ。しかし試合後、いくつかの場所で対立や衝突、襲撃事件が起きた。 ■暴徒たちは暴力行為の動画を誇らしげにSNSに公開 スクーターに乗った2人組が走行しながら蹴ったり殴ったりする「ヒット・アンド・ラン」でイスラエル人サポーターを次々と襲った。少なくとも62人が逮捕された。イスラエル政府は自国民を無事に帰国させるため臨時フライトを手配した。 イスラエル外務省は8日、「昨夜のアムステルダムからの恐ろしい光景は欧州の最も暗い歴史と呼応している。 マッカビ・テルアビブFCのサポーターはアヤックスとの試合後、待ち伏せされ、残忍な襲撃を受けた」とX(旧ツイッター)に投稿した。 「暴徒たちは反イスラエルのスローガンを唱え、イスラエル市民を蹴り、殴り、轢くという暴力行為の動画を誇らしげにSNSに公開した。ユダヤ人が残忍な攻撃に直面した水晶の夜の直前に欧州の街頭で再び反ユダヤ主義の暴力を目撃するのは恐ろしいことだ」(イスラエル外務省) ■UEFAは試合中の政治的発言・横断幕を禁止 11月5日、パリで行われたUEFAチャンピオンズリーグのパリ・サンジェルマン(PSG)対アトレティコ・マドリード戦ではキックオフ前にPSGサポーターが「フリー・パレスチナ」「ガザの子どもの命は他の子どもより軽いのか」と書かれた50メートルの横断幕を掲げた。 イスタンブールの名門クラブ、フェネルバフチェSKのサポーターも7日、国内リーグの試合中に「フリー・パレスチナ」と書かれた横断幕を広げ、パレスチナに連帯するスローガンを唱えた。トルコのサッカー選手やサポーターはこれまでにもパレスチナ支援を表明している。 サポーターの感情が激しやすいサッカーの試合は、ユーゴスラビア紛争で民族間の嫌悪や敵対を煽る場として使われた。UEFAはサッカーの中立性を堅持し、政治とサッカーを切り離すことに努めている。試合中の政治的発言・ジェスチャー・横断幕を禁止している。 欧州では政治の右傾化が進み、イスラム系移民との軋轢が大きくなっている。露骨にイスラエルに肩入れするトランプ氏復活でイスラム系移民のフラストレーションがさらに増幅するのは必至だ。欧州が抱える爆弾はいつ炸裂してもおかしくない。