世界遺産がある5市町リーダーが議論、オーバーツーリズム対策から交通課題まで、「世界遺産サミット」を取材した
リピートしてもらえる価値の創造を -佐渡市観光振興部・小林部長
2024年7月に「佐渡島(さど)の金山」が世界遺産に登録されたばかりの佐渡市観光振興部の小林大吾部長は、世界遺産登録までの道のりや構成資産を紹介した。 小林部長は1997年、佐渡市に合併する前の旧相川町で民間による「世界文化遺産を考える会」が結成されたことをきっかけに、世界遺産への登録を目指す運動が始まったことを説明。新潟県と佐渡市が連携し2021年、5度目の挑戦で国内推薦候補に選ばれたが、ユネスコ(国連教育科学文化機関)から推薦書の不備を指摘され、再提出するなどの困難を乗り越え、ようやく登録を果たしたことなどを振り返った。 小林氏はインドで開かれた世界遺産委員会で登録の瞬間を見届けた。帰国して船から降りた時は多くの市民が出迎えてくれたといい、「市民の方々に喜んでいただけて、この取り組みをやって本当に良かった」と振り返った。また、会場の参加者から能など無形文化遺産と組み合わせた発信について問われ、「地元のDMOと協力しながら佐渡に伝わる能文化や『鬼太鼓』などを見てもらうツアーを作っている。金山をきっかけに来ていただいた方に2回目、3回目と来ていただく価値をどのように生み出していくかを考えている」と答えた。
振興だけでなく、より精神性の高い観光の推進を
首長会議には、富士吉田市の堀内市長と吉野町の中井市長に加え、平泉町の青木幸保町長、日光市の粉川昭一市長が参加した。モデレーターは神奈川大学国際日本学部教授の島川崇氏が務めた。 日光市の粉川市長は、飲食店のメニューや社寺の説明看板の多言語化、Wi-Fi整備、キャッシュレス決済導入などインバウンド対応を強化していることや、「日光の社寺」の世界遺産登録25周年の記念事業を実施していることをアピール。平泉町の青木町長は、岩手県などと連携して「柳之御所遺跡」の追加登録を目指す取り組みを進めていることを紹介した。また、東京国立博物館で開かれた特別展「中尊寺金色堂」に展示されていた仏像を見た住民から「この平泉に生まれ育ってよかった」と言われたエピソードを明かし、「文化を周りの方々に伝えるのも大事だが、自分たちが地域の文化財や文化をしっかり知ることが、今後につないでいくためには大事だと改めて知らされた」と話した。 その後の首長会議は、オーバーツーリズムが議論の中心となった。日光市における現状と対策について問われた粉川氏は、交通渋滞によって市民生活にも影響が出るようになり、パークアンドバスライドなどさまざまな方策を試したことを説明。「国や県の施設の駐車場を開放してもらったり、仮設駐車場を設置したりすることで多少緩和された」という。 観光周遊のための交通手段の状況についても話題にあがった。富士吉田市の堀内市長は、空港や駅でレンタカーを借りて訪れる外国人観光客が増えているため、市内各地に駐車場を整備するなどの対策を取っていると説明した。また、「今後はEVの無人バスを市内で走らせて、交通の問題を少しでも解消しようと努力している」という。 モデレーターの島川氏は、会議を進行しながら、富士山の麓から登るルートや吉野の修験道を歩いて回ることに触れ、青森県から福島県までの太平洋岸を歩く「みちのく潮風トレイル」など「歩く観光」が注目されていることを取り上げた。そして最後に「オーバーツーリズムの問題は避けて通れない状況になってきた。観光振興だけで進んでいっていいのか、いったん立ち止まる必要があるのではないかとも考えさせられた。もっと歩いたり、静かに考えたりして世界遺産を静かに見つめ直していく。もっと精神性の高い観光を推進していく時期に差し掛かっているのではないか」と締めくくった。
トラベルボイス編集部