なぜヒトの睡眠は2種類あるのか 実は全くの別モノ、睡眠専門医が詳しく解説
2種類の睡眠の出現パターンとその理由、進化論的にも適切な行動パターンとは
さて、ここからは図に示したようなレム睡眠、ノンレム睡眠の特徴的な出現パターンがなぜ形作られたのか考えてみたい。 レム睡眠の出現時刻は体内時計が決定していることが先行研究から分かっている。つまりレム睡眠が出現しやすい時間帯は決まっている。例えば、昼行性である人のレム睡眠の出やすさ(レム睡眠圧)は深夜から徐々に勢いが強まり、明け方ころにそのピークを迎え、昼頃に向けて減少する。 実際、寝ついてから90分~120分経った頃に最初のレム睡眠が出現するが、その持続時間は短い。睡眠後半になるほど持続時間が長くなり、明け方のレム睡眠がもっとも持続時間が長い。明け方の夢が鮮明でストーリー性が豊かなのはこのことによる。その後昼前に向かって勢いが落ち、午後に眠ってもほとんどレム睡眠は出ない。 レム睡眠が不動状態として最初に登場したとすれば、それが一日のどの時間帯に出現するかは動物にとって死活問題である。捕食動物に遭遇しやすい時間帯に巣穴で身を潜め、外敵が寝静まった時間帯に栄養補給のための探索行動をすることが生き残りに効果的だからである。 この仮説が正しいとすれば、レム睡眠が体内時計によって時刻指定されているのは合理的と言える。夜行性、昼行性などその動物にとって最適な時間帯に規則正しくレム睡眠が出現した方が自然淘汰を避ける上で好ましいからだ。 ちなみに、レム睡眠が約90分周期で断片的に出現するメカニズムはまだ解明されていない。外敵に囲まれた生活では巣穴の中といえども長時間連続して眠り続けるのはやはり危険で、時折覚醒して安全を確認する必要があるからだなどの説もあるが、真偽は分からない。 一方のノンレム睡眠は先住のレム睡眠の軒先を借りる形で出現したと考えると一晩の睡眠パターンを理解しやすい。大脳にとって必須の深いノンレム睡眠を、レム睡眠の勢いが弱い夜の前半にまず確保する。最初のレム睡眠が登場するといったん場所を譲るが、クールダウンが十分でない場合には1回目、時には2回目のレム睡眠の終了後に再度出現することもある。 睡眠後半では深いノンレム睡眠は姿を消し、浅いノンレム睡眠が主体になる。そして睡眠後半になるとレム睡眠が幅をきかすようになり、しっかりと脳のクールダウンが完了すると浅いノンレム睡眠も終わり朝の目覚めを迎えることになる。 レム睡眠が体内時計に支配されているのに対して、ノンレム睡眠はゼロではないが基本的に体内時計の影響を受けない。そのため脳の疲労度に応じて一日のどの時間帯でも出現する。例えば夜勤など徹夜明けであれば、どの時間帯に眠っても深いノンレム睡眠が出現し、その量も普段より多くなる。 ただし、朝はまだレム睡眠の勢いがあるので休日の二度寝の寝入りばなに出現したレム睡眠中にリアルな夢を見た経験のある人も多いのではないだろうか。また日中の遅い時間帯になると脳の温度が上昇してくるため、いったん寝ついても深いノンレム睡眠が終了すると目覚めてしまったりする。 日中にガッチリ活動し脳もホットにしておいて、眠りの前半で深いノンレム睡眠をしっかり確保。規則正しい生活で体内時計を整え、体内時計で決められた時刻通りにレム睡眠が3、4演目登場、その幕間に浅いノンレム睡眠が登場して脇を固める。このように次第通りに睡眠劇場が上演されることが進化論的にも適切であることがお分かりいただけただろうか。
(三島和夫 睡眠専門医)