子宮頸がん患者の悲劇とワクチンの重要性伝える県民公開講座 9月に
◇学術講演会は「パラダイムシフト」がテーマ
学術講演会は「Next innovation toward paradigm shift」というテーマで7月18~20日、鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催します。がんの治療に関してはここ数年、ゲノム医療、分子標的薬、ロボット手術など、内科・外科を問わず5~10年単位で“常識”が変わる「パラダイムシフト」が起きています。私たちは3年おきに各種がん治療ガイドラインを改定しているのですが、それでは追いつけないほど変化のスピードが速まっています。そこで、「婦人科がん医療における次のパラダイムシフト(維新)の契機としたい」と決めたのが今回の学会テーマです。学術講演会のポスター中央には、薩摩藩が英国文化を学ぶために派遣した使節団のモニュメントを配置しました。進取の気質を持ち、明治維新の中心となった薩摩藩の流れをくむ鹿児島で、そのような学会をしたいとの思いを込めました。 学術講演会では、先ほど述べたゲノム医療、分子標的薬、ロボット手術という新たな分野のトピックスをシンポジウム、ワークショップに組み込んでいます。加えて、私は国内では「手術が大好きな先生」とみられていますので、標準治療が確立していない領域の手術について相互討論する「手術ディベート」を毎日1コマずつ設定し、会長の“独自性”を出しています。
◇「安心して患者さんの前に送り出せる医師」はどんな先生?
私は高校まで宮崎県で過ごし、医学部に進むことを選びましたが、家族にも親族にも医師はおらずしがらみもなかったので、自分のやりたいこと、興味がある分野を選ぶことができました。やるならば「難しい病気相手が良い」とがん医療に興味を持ち、婦人科のがんは治療が効いて延命する方が多いことから、やりがいがあると婦人科がん治療の道に進みました。 若いうちはお産もたくさん手掛けました。当初からずっと心掛けてきたのは「患者ファースト」の信念でした。自分の都合でお産を昼間に誘導することは恥ずべきことと考え、自然にお産が始まったら駆けつけるというやりかたを貫いたため、家族には大変苦労を強いたと思います。 大学院を終えてカナダに留学し、帰国後は九州大学の産婦人科で診療をしながら、経験を積むと少しずつ婦人科手術の開発を試みてきました。そうしたなかで、他施設に先駆けて、子宮頸がん患者に子宮体部を残して妊孕性を温存する「広汎子宮頸部摘出術」や、術後の下肢リンパ浮腫の原因となる骨盤リンパ節郭清を省略できるようセンチネルリンパ節を術中生検する手術などに取り組みました。手術支援ロボットda Vinciに加え、国産ロボットhinotoriを2022年に導入し、世界初の婦人科術者と見学施設認定を受けましたが、前記の2術式も今ではロボットによる自由診療手術として患者さんに提供しています。 大学院から始めたがん治療薬の開発研究は今でも続け、新薬を実臨床に届けたいと願っていますが、自分が“next innovation”を目指して最も取り組んできたのは、婦人科の手術分野だったと思います。 患者ファーストの生活を送るのはつらいことも多いですが、一度でもその信念を変えたら自分の“医師としての誇り”はなくなると思い、がんの手術もお産も全て患者さんに喜んでもらうことを第一義にしてきました。青臭いかもしれませんが、高校生や予備校生向けに頼まれた講演ではいつも、「単に“成績が良いから医学部に行く”と言うのはやめてください。患者さんに感謝されることを喜びとする人だけ医師になっていただきたい」と述べています。今まで関わってきた後輩や教室員たちをみていて、安心して患者さんの前に送り出せるのは、患者ファーストで振舞える医師だとずっと変わらず思っています。 医師について 鹿児島大学医学部産科婦人科学教室 教授 小林 裕明 先生 1985年九州大学医学部卒業。カナダ・トロント大学がん研究部門留学。九州大学医学部産科婦人科准教授、鹿児島大学医学部産科婦人科学教室准教授などを経て2016年から現職。婦人科がん先端医療学講座併任教授。日本婦人科ロボット手術学会理事長。
メディカルノート