ウナギの産卵回遊行動を解明 完全養殖技術確立に貢献へ 近畿大学
ニホンウナギの稚魚(シラスウナギ)の漁獲量は、乱獲や生育環境の変化により1960年代の1割以下の水準に減少。2013年には環境省が絶滅危惧種に指定している。 現在、日本で食べられるウナギの99%は天然の稚魚を使用した養殖によるが、卵からの完全養殖技術は仔魚の飼育技術・飼料の改良が困難で商業化には至っていない状況だ。こうした中、近畿大学農学部水産学科・渡邊俊准教授はニホンウナギの産卵回遊や生態の謎を解き明かし、完全養殖技術確立への貢献を目指している。
渡邊准教授は、2009年に世界で初めてニホンウナギの天然卵を発見した研究チームの一員でもあった。 「卵の発見で、ニホンウナギの産卵場は日本から約3千km離れた西マリアナ海嶺南端部の海域と特定された。ふ化した仔魚は北赤道海流と黒潮に乗って日本の沿岸域に運ばれ、河川・河口や湖沼で生育した後、再び海へ戻って産卵する。往路・復路合わせ約6千kmに及ぶ大回遊。どうやって産卵場にたどり着けるのか一昔前まで全く分からなかったが、技術革新がそれを一変した」という。 復路の産卵回遊の調査では、センサーやメモリーを内蔵する「ポップアップタグ」と呼ばれる装置を取り付けたウナギを放流し、その行動を追跡する。タグは一定期間後に自動的に外れ、ウナギの遊泳深度と経験水温のデータを衛星経由で研究室へ送信する。 ウナギは平面的な移動だけでなく、一日の中で水深800mから200mの間を規則的に移動する「日中鉛直移動」を示す。昼間はサメなど捕食者を回避するため水深の深い層に潜り、夜間は表層に上がる。また、ウナギは月明かりも感知し、満月・新月など月の満ち欠けによって水深の上限を変化(300~150m)させる。 経験水温は水深に応じて変動するが、最低温度は4.7℃でほぼ一定であることが分かった。5℃以下になると体を動かせなくなると考えられる。また、日本沿岸域から外洋域、産卵場へと回遊が進むにつれて温帯から熱帯に気候が変化するが、経験水温の上限も上昇傾向を示す。最低水温は約5℃で一定だが、最高水温は15℃から25℃前後へと上昇する。 「産卵回遊に伴い気候帯が変化し、一日の中での経験水温が10~15℃変動することで、ウナギの成熟・産卵が進む可能性がある」として、今後新たな実証実験の展開も視野に入れている。養殖ウナギの飼育環境を調節し、水温・光・日長など産卵回遊における自然環境を模倣することで自然産卵を誘発させる狙い。 渡邊准教授は「ウナギの産卵回遊行動を完全養殖技術の確立に役立てたい」と意気込みを示す。「このままでは、ニホンウナギは近い将来本当に絶滅しかねない。産卵にまつわる神秘を科学的に解き明かし、日本のウナギ食文化を守るために今後どうすればよいか、そのヒントを示したい」。