森林を歩くと、血圧は下がる?上がる? 「自然セラピー」の最前線。
『趣味の園芸』2024年4月号の特集内「植物が身体を整える 『自然』で『自然に』リラックス」では、千葉大学の池井晴美先生に、自然と身体の関係について教えていただきました。 ウェブだけで読める「こぼれ話」では、池井さんにさらに詳しくお話を伺います。
――池井先生が研究されている「自然セラピー」とは、どういったものなのでしょうか? ひと言でいうと、「自然が人の脳や身体にもたらす生理的リラックス効果」を研究しています。だれでも、森林や公園などで自然に触れると落ち着き、癒やされる、と感じたことがあると思いますが、そのとき、私たちの身体に実際に何が起きているのか解明しようとしています。 また、森林だけではなく、部屋にある鉢花も「自然」としてとらえています。「自然セラピー」を細分化すると「森林セラピー」「公園セラピー」「木材セラピー」「花・植物セラピー」などにわけられ、それぞれの身体にもたらす効果を実験で実証しようとしています。
――誌面では、バラを見たときに「ストレス状態にある人は交感神経活動が抑制されてストレスが軽減し、ぼんやりした状態にある人は上昇して適度な覚醒状態となりました」という部分が印象的でした。単純に「リラックス効果がある」のではなく、その人のもともとの状態によって得られる効果が異なるということですよね。 そのとおりです。誌面でご紹介したのは花セラピーの例ですが、森林セラピーでも同様の実験を行いました。そこでは交感神経活動ではなく、「血圧」で同様の結果を得ているのです。 92人の成人に協力してもらい、15分間森林を歩行したあと、血圧の値がどう変化したのか計測しました。仮説としては、「リラックス効果によって血圧が下がる」ですが、実際にデータを見ると、個人差が大きく、上がる人もいたのです。 そこで、各人がもともと持っている血圧の数値に注目したところ、おもしろいことがわかりました。もともと血圧が高い人は森林での歩行後に血圧が下がり、もともと低い人は、反対に上がったのです。 これは「歩行という適度な運動による効果なのでは?」と思われるかもしれませんが、同じ人が都市を歩いてもその効果は得られませんでした。したがって「森林特有の効果である」ということがわかりました。