森林を歩くと、血圧は下がる?上がる? 「自然セラピー」の最前線。
――自然によって、私たちの身体になにが起こったのでしょうか......? 人は進化の歴史の中で、長らくあるがままの自然の中で生きてきました。人の身体は、いわば「自然対応用」にできていて、五感を介して自然に触れたとき、本来の「人としてのあるべき状態」に近づくのだと考えています。私たちは、それを生体調整効果と呼んでいます。 さらに、もともとの血圧が高い高血圧者に対して、森林セラピープログラム実験(6時間)を行い、血圧の継続的な低下効果を調べたところ、すくなくとも5日間持続することがわかりました。その持続効果の詳細については、今後の研究で明らかにしていきたいと思っています。
――「自然が体にいい」というのは基本的には誰もが聞いたことのある話だと思うのですが、実際のデータがわかると興味深いです。また、本誌に掲載されているように、それが鉢植えなどの「小さな自然」でもよいことが実証されるのは、『趣味の園芸』編集部としてうれしいです。 まさに私たちの研究は、「なんとなく良いとされてきた植物がもたらす癒やし効果について、自律神経活動や脳活動などの生理指標を用いて科学的に明らかにしている」ということです。 ただ念のためにいっておくと、「森に行くと病気が治る」とか「木の家に住むとアトピーが改善する」とか、そういう話ではありません。自然がもたらす効果によってストレスが軽減されると、低下していた免疫機能が改善されます。免疫機能が改善すると、病気になりにくい身体をつくることができる、ということです。病気を治すのではなく、あくまでも予防医学的効果であり、私たちはその効果の解明を目指しています。 後編<園芸でリラックス! 「自然セラピー」を実生活に生かすには?>に続きます。 ※画像はすべてイメージです 池井晴美(いけい・はるみ) 千葉大学国際高等研究基幹 テニュアトラック准教授(2024年4月より)。環境健康フィールド科学センター兼務。博士(農学)。専門は自然セラピー学。自然がもたらす生理的リラックス効果の解明を目的とし、自律神経活動や脳活動等の生理指標を用いた科学的データの蓄積を進めている。 ●誌面で紹介しきれなかった情報をウェブ限定で公開する「趣味の園芸テキストこぼれ話」より