【昼酒御免!】身も心も温まる熱々の鳥豆腐 「銀座並木通り」の大衆割烹で都会の喧噪をしばし忘れる
お酒はいつ飲んでもいいものだが、昼から飲むお酒にはまた格別の味わいがある――。ライター・作家の大竹聡氏が、昼飲みの魅力と醍醐味を綴る連載コラム「昼酒御免!」。今回は師走のある日、都会のど真ん中で寒さも吹き飛ぶ逸品に舌鼓を打つ。【連載第6回】 【写真】まずはサッポロの「赤星」と枝豆。お次は「鳥豆腐」、鳥の出汁の効いたスープに豆腐と鳥と青菜を具材にした小鍋のような一品
* * * 銀座で昼飯。さて、何を喰おうか。中華に洋食、寿司に天ぷら、蕎麦も捨てがたいなどと思い浮かべるとき頭をよぎるのが、どうせランチにするならちょっとは飲みたいな、ということだ。 たとえば、中華。定食にビールを添えるとか、春巻きでビールから始めて、あんかけ焼きそばなんかつまみながら紹興酒にするとか、あれこれ考える。 さらに、もう一歩先へと思いが進むと、軽く1、2杯飲むか、あるいは、1、2時間飲むか、というところに行きつく。 そのとき思いつくのが「三州屋」だ。銀座2丁目、並木通りから入る路地の突き当りに、「白鶴」の名が入った縦長の看板がかけてあって、「活魚料理 三州屋銀座店」とある。引き戸には、この時期、濃紺の暖簾がかかっている。 ああ、やってる、やってる。ありがたいねえ。 がらりと戸を開けて中を覗くと、すでにほぼ満席だ。こちらは、いつもの飲み友ケンちゃんと私のふたりだから、予約などしなくても大丈夫だろうと思っていたけれど、空いていたのは1卓だけだった。ぎり、セーフ、というヤツだ。 「お食事ですか? お酒ですか?」 「ああ、飲みます、飲みます」 平日の昼下がり、銀座の大衆酒場で交わす最初の会話がこれだ。実に気分がいい。見回すと、昼の定食を食べる人と、昼から飲む人と、7対3くらいか? いやいや、6対4か? ひょっとすると半々か。そんな感じ。 「瓶ビールください」 「アサヒ、キリン、サッポロ、どれにしますか?」 「じゃあ、サッポロ」 「サッポロは……」 「赤星にしてください」
さすが大衆割烹というべき充実メニュー
お通しに、枝豆が出た。箸袋には「大衆割烹 三州屋」と印刷されている。いいねえ、改めて。大衆酒場でなく、大衆食堂でなく、大衆割烹だ。こちらのメニューの充実ぶり、そのうまさ、腹いっぱい食べるもよし、酒肴としてあれこれ頼むのもよし。大衆割烹という呼び名が実にぴったりくる。 枝豆で瓶ビールをやりながら、待つことしばし。鳥豆腐がやってきた。鳥の出汁の効いたスープに、豆腐と鳥と青菜を具材にした、小鍋のような一品である。 私はこれまで、「三州屋」というと、銀座店のほかに、六本木店(移転前のお店)、神田店にもお邪魔をしてきたけれど、いずれの店でも必ず鳥豆腐を頼んだ。鳥豆腐は「三州屋」の名物であり、私の好物なのだ。 今日はふたりでつまむので、丼から小鉢に取り分けるのだが、そのしばらくの間も惜しいくらいに、この一品は熱いうちに味わいたい。夏場でも熱々で食べるのが、おいしくいただくコツだと思っているくらいだから、この時期はなおさらだ。急いで食す。ハフハフいいながら汁を啜り、豆腐と鳥と小松菜を次々に口へ運ぶ。 ああ、うめえ。うめえなあ、鳥豆腐は……。声には出さないが、私の心が言っている。 アジ叩き、イワシ叩き、カツオ叩き、ぶり刺身、銀ムツ煮付け、きんめ煮付けなどの定食には、ご飯、漬物のほかに、この鳥豆腐が汁ものとして添えられる。すばらしい取り合わせなのだ。食べるたびにそう思う。実際、周囲を見渡せば、食事目当てのお客さんたちの中には、鳥豆腐つきの定食を召し上がっている人が多い。男性客はご飯を大盛りにしているみたいだが、大盛りも追加料金はかからない。まことに親切。ちなみに、アジ叩き定食は鳥豆腐がついて1450円。生ビールの(小)は480円。2000円でおつりがくるのである。