大勢で観ると逆に楽しい近年の「ツッコミどころしかない」映画 「1秒たりとも正気ではない」
ツッコむことすら難しい理由もある
創作物における「ツッコミどころ」は往々にして欠点ですが、ツッコミどころが一周回って面白くなる作品があるのも事実です。なかには後述する通りツッコむのも難しい特徴さえあるものの、気のおけない友人同士で集まって鑑賞、またはウォッチパーティーで観れば、楽しい作品に変わるかもしれません。 【画像】え…っ? 「今さら?」「逆に斬新」 こちらが映画『“それ”がいる森』の「それ」の正体です ●『君は彼方』 アニメ映画『君は彼方』は公開当時にはあまり話題にすらなっていませんでしたが、むしろ珍作を求める好事家にはたまらない内容です。序盤から1枚絵が頻発する省エネ設計やキャラの表情の変化の乏しさなど作画のクオリティーにハラハラしていると、「雨のなかを自動車で爆走し曲がり角を直角に曲がる」という衝撃的なシーンまで出てきました。エンドロールで分かる原画スタッフはわずか9人で、そのわりにはギリギリ作画崩壊しないクオリティーを保っているとはいえます。 タイトルからして『君の名は。』を思わせますが、それだけではありません。雲の上に到着したり落ちていったりするシーンは『天気の子』を、海の上を電車で走るさまは『千と千尋の神隠し』を、たくさんの空飛ぶペンギンは『ペンギン・ハイウェイ』をほうふつとさせ、有名作をパッチワークした魔界のような世界観が構築されています。さらには物語の導き手がおっさん声(CV:山寺宏一)で話す点は『名探偵ピカチュウ』っぽい上に、なぜか同じキャラが「ピカチュウ」の声(CV:大谷育江)でもしゃべる大盤振る舞いなのです。 そのほか、後半はいろいろとイベントが起きているようでやっていることと起きていることは実質的に同じで時間が「ループ」している感覚に陥ったり、真実を知った主人公の絶叫が松本穂香さんの熱演のおかげで度を越して怖かったりと、ツッコむことすら躊躇(ちゅうちょ)する勢いで、「いろいろな映画をマネしているのに今までにない映画を観ている」かつてない感覚さえもあったのです。 しかし、塞ぎ込んでいた女子高生が異世界に迷い込む王道の物語や冒険を経ての真っ当な教訓や、前半にあった「不自然さ」が伏線として回収される点など、ちゃんとしている部分もあります。なお、瀬名快伸監督は本作の制作のために2億円弱の借金をしたという本人からの告白がありましたが、その後にどうなったのか、気になるところです。 ●『“それ”がいる森』 2022年のホラー映画『“それ”がいる森』も、そのクオリティーがかなり話題となった作品です。 本作で何よりの見どころかつサプライズは、ネタバレ厳禁の「それ」の正体にあります。正直、冒頭から勘の良い人なら気付くでしょうし、開始20分ほどでついに「あれ」が映し出された瞬間では「思ったよりヤバイのが出てきたな、どうすんだこれ」と多くの人が思ったことでしょう。 公開当時から、SNSで「令和だぞ?」などと古風な発想にあきれている(喜んでいる?)意見も見かけましたが、筆者は2022年にこのジャンルの日本のホラー映画が、あの『リング』の中田秀夫監督の手で作られること自体が、一周回って斬新だとも思えました。 具体的な展開は秘密にしておきますが、本作は「笑いと恐怖は紙一重」というレベルを超えて、笑いのほうが完全に紙を突き破ってるシーンがたっぷりあることは確かです。 観客がとっくに分かっている事実に相葉雅紀さん演じる主人公が不自然なくらい気が付かなかったり、クライマックスでのとある展開に対して「なんで?」と劇中で投げかけられた疑問が投げっぱなしだったり、とんでもない異常事態になっていても生徒たちのテンションが攻撃的すぎたりといったツッコミどころも多く、それらを笑って許せるか、雑さに怒ってしまうかは、人それぞれでしょう。 とはいえ、「登場人物が必死で訴えていることを周りの誰も信じてくれない」ホラーにおける王道の展開は抑えているほか、事件に巻き込まれるのは主に小学生たちでジュブナイルムービーとしての魅力もあるので、ちょっと怖い映画を求める小学校高学年頃のお子さんや、映画「学校の怪談」シリーズが好きな大人、何より「B級ホラー」を好んで見る方にはおすすめできます。