無名の「守備の人」から大学侍ジャパン候補に 理論的指導と昔ながらの猛練習で打撃開花
筋道立った語り口「野球を続けないなら理系に」
早稲田大の付属校で、難関で知られる早大学院に、スポーツではなく自己推薦で入学し、そのまま早稲田大に進学した。スポーツ推薦の選手が多い中で異色の存在だ。 母親の実家がある新潟の強豪校に進学して野球を続けようと考えていた中学3年時。内申点がよかったことから、自己推薦で早大学院に入学し野球を続けるという方向に切り替えた。一般入試も視野に夏から猛勉強を開始し、進学塾内の模擬試験で偏差値を30ほど上げたという。 両親とも理系で、自身も「野球を続けないのであれば大学は理系に進もうと思っていた」と語る。野球について話す内容も筋道立っていて、自分の意図を正確に伝えようと説明も丁寧だ。 昨年1年間セカンドを守った経験について山縣は、「セカンドをやったことで少し引き出しが増えたと思っています」と表現する。「例えば逆シングルでファーストに投げるとき、ショートより角度があります。ショートでは少し楽を出来るというか、セカンドなら厳しい角度のところをショートだったらもうちょっと楽に出来る、というような形で、体の使い方が少しうまくなったかなと思います」
ベンチを鼓舞、勝利への執念あらわに
青山学院大との決勝戦。山縣は堅実な守備を見せ、打撃でもうまく流し打って1安打。だが、山縣の思いがよく表れたのは、そのヒットではなく、終盤の二つの四球だった。 1点リードされたまま迎えた七回。1死無走者で打席に入った山縣は、四球を選ぶと大きな声でほえ、右腕を振り下ろしてガッツポーズを見せた。次の打者のときには、ヘッドスライディングでタッチをうまくよけて盗塁も決めた。先頭打者として迎えた九回も、1ボール2ストライクと追い込まれてからよく見て四球を選び、七回にも増して大きな身ぶりでベンチを鼓舞し、一塁へ向かった。 いずれの出塁も後続が倒れ、本塁は踏めず、山縣は青山学院大の歓喜をグラウンドから見ることになった。 チームは準優勝に終わったものの、山縣個人としては、春のリーグ戦と今大会を通じた実績から、7月の国際大会に派遣される「侍ジャパン大学代表」の選考合宿に招集されるという成果を得た。 小さい頃からプロ野球選手になるのが夢だという。理論的指導と冬の間の昔ながらの猛練習で、バッティングはこの春に開花した。小さい頃から磨いてきた守備力や勝利への執念を土壌として、山縣はどんな実りの秋を迎えるのだろうか。
西田 哲