世界でただ1人「希少種ゴキブリ研究者」の実態とは?沖縄で採集しお持ち帰り、でもゴキアレルギー
これは運命のいたずらか……と運命に責任転嫁したいところだが、こんなケッタイな病になったのは、これまで7年間クチキゴキブリをいじくりまわした自身のせいであることは明白で、ぐうの音も出ない。……ぐう。 私が初めてクチキゴキブリを知ったのは大学生の頃だ。昆虫採集に行った初めての南西諸島は2月の石垣島だったと思う。 石垣島にはタイワンクチキゴキブリ(原名亜種)が生息している。沖縄では馴染みのホームセンター「メイクマン」で今でも愛用している手鍬(てぐわ)を購入し、その新品の手鍬を朽木に向かってぽすっと一振り。そうしたら、ぽろぽろとクチキゴキブリが出てきたのだ。
■私も希少種? このとき、コロニーにいる両親の翅(はね)がなくなっているのを初めて目の当たりにしたのである。どうして翅がないのだろう、と調べるうちに、クチキゴキブリの記載論文(新種発見を報告する、その種の特徴を記した論文)に「成虫の翅は欠損していることが多い」と書かれているのを読み、その断面の形状から「翅が齧(かじ)られているのでは?」と思うようになり、のちにこれはオスメスで食べ合うらしいと知った。
この「クチキゴキブリの雌雄が互いに行う翅の食い合い」こそ、私が2021年に初めて論文で報告し、卒業研究から現在まで続けている私の研究テーマである。ちなみに、クチキゴキブリ研究を現在遂行しているのは全世界で著者ただ一人だ。その意味では、私もやんばるの生物と同じく希少種である。
大崎 遥花 :クチキゴキブリ研究者