世界でただ1人「希少種ゴキブリ研究者」の実態とは?沖縄で採集しお持ち帰り、でもゴキアレルギー
もちろん、ゴキブリを入れている容器はすべて確実にロックできる構造のものを使用しているし、リュックをひっくり返したところで、1頭たりとも逃げ出すことはない。音も臭いもない。当然、機内持ち込み禁止物でもない。しかしそんな現実的な話は関係ないのが人間の感情というものだ。 ■土の入った容器にたまたま… そして、土が入っているというのは噓ではない。ゴキブリは土を入れた容器に入っていたのだから。土の中にゴキブリがたまたますべての容器に混入していただけである……という詭弁をこねくり回したくなるが、当時、咄嗟に遠回しに噓をついてしまったことは反省している。
機内持ち込みせずとも、預け入れ荷物でクチキゴキブリたちが元気に手元に返って来ることがわかってからは、なるべく預けるようになった。 クチキゴキブリは読んで字のごとく、朽木の中に棲み、朽木を食べて生きているゴキブリである。彼らは、ふだん読者の方が遭遇しているであろう「屋内に出没する黒い影」とは違い、速く走れないゴキブリだ。 私は九州大学理学部に入学し、大学4年生で卒業研究を始めたときから、この本を執筆している現在に至るまでの約7年間、クチキゴキブリを研究してきた。日本には、九州・屋久島にエサキクチキゴキブリ、奄美以南にタイワンクチキゴキブリの合わせて2種のクチキゴキブリが生息する。
沖縄本島で採集できるのはリュウキュウクチキゴキブリ(タイワンクチキゴキブリの琉球亜種)であり、調査地のある沖縄本島北部に広がる豊かな森林「やんばる」まで毎年調査・採集に行くのである。 やんばるは、クロイワトカゲモドキやテナガコガネ、ヤンバルクイナなど沖縄固有の生物にあふれた生き物屋垂涎の場所だ(生き物好きの中でもある一線を越えてしまった人種を「生き物屋」と呼ぶ)。 ■一生浮気はなし クチキゴキブリは朽木を食べながらトンネルを作り、そこで家族生活を営んでいる。父親と母親は生涯つがいを形成し、一切浮気しないと考えられている、もしかすると人間よりも一途な生き物である。一生浮気せずに同じ個体と、という生き物は非常に稀であり、これだけでも研究する価値がある。