世界でただ1人「希少種ゴキブリ研究者」の実態とは?沖縄で採集しお持ち帰り、でもゴキアレルギー
しかも、彼らは「卵胎生」という、卵が母親の体内で孵化(ふか)して子が直接お母さんのお腹から出てくる繁殖形態をとる。卵胎生はサメやダンゴムシ、マムシ、タニシなど、実は分類群を越えてぽつぽつ存在するが比較的珍しい。クチキゴキブリは交尾後約2カ月で子が生まれると、両親ともに口移しでエサを与えて子育てを行う。 両親揃って子育てを行う生態は鳥類などでは多く見られるが、昆虫ではこれまた非常に珍しい。成虫になった子は5~6月に実家の朽木から飛び立つ。私はこの成虫になる前の子を狙って、4月にやんばるへ毎年やってくるのである。
ゴキブリ目線で語るとなんとも恐ろしい存在だ。 しかし、安心していただきたい。何も親を殺して子を奪い取ろうというのではない。彼らは両親と子で構成されたコロニーで生活している、いわば核家族世帯である。私はその仲睦まじい家族を血も涙もなく引き裂いたりはせず、一家まるごと採集する。これで、まだ小さな子も親がいて安心だ。私もゴキブリがたくさん採れてうれしい。Win‒Winである。 しかしうれしいことばかりではない。なんと私はゴキブリアレルギーになってしまったため、クチキゴキブリを素手で触ると無数の水ぶくれができてしまうのである。クチキゴキブリの脚には無数の棘があり、それが皮膚を貫通するのだ。脚の棘は刺さると血が出るくらい鋭い。薄手ゴム手袋もなんのその。
毎年ゴキブリシーズンになると、ゴキブリのハンドリングに一番よく使われる私の右手人さし指先端は鮮血がにじむ。こうして棘表面に付いたゴキブリ由来の怪しい物質(おそらく体表炭化水素など)が体内に入ってしまうと、翌日には立派な水ぶくれが皮膚の奥底からこちらをのぞいているので、こちらものぞき返す。たまに潰す。 ゴキブリアレルギーだったとしてもこんな人生を歩んでいなければ困りはしなかっただろうに、よりによってクチキゴキブリ研究者などという道を選んでしまったため、採集、実験シーズンは指がかゆくて仕方がない。