【推しの子】実写化は本当に“大丈夫”なのか? 不安な原作ファンがプロデューサーにガチ質問してきた
社会現象化した赤坂アカと横槍メンゴによる漫画「【推しの子】」を、Amazonと東映がタッグを組んでドラマ&映画化した。Amazon Prime Videoでドラマシリーズ「【推しの子】」全8話が配信中で、12月20日から映画「【推しの子】 The Final Act」が劇場公開される。 【フォトギャラリー】「【推しの子】 The Final Act」 【推しの子】実写化の報を聞いたとき、ファンの1人として率直に感じたことは「え、大丈夫なのか?」だった。 ネット上も同様の感想で、原作ファンを中心に“ネガティブな反応”が多く目につき、“大歓迎ムード”とは口が裂けてもいえない情勢だった。 原作ファンを失望させる実写映画化は山ほどみてきた。製作陣の原作愛が足りていないのでは、と感じる作品もしばしばあった。その逆に、ファンを唸らせ、そしてファン以外もその原作の虜にする実写映画化も多くみてきた。 さて、【推しの子】はどっちだ? 本編で判断することはもちろんだが、それ以上に、ファンとしての疑問を、実写化の発起人=プロデューサーにぶつけてみたいと強く思った。 キャスト・スタッフの原作愛は? 原作再現はどれくらい? キャスティングは完璧? キャラ解釈・考察はちゃんとした? 赤坂アカ&横槍メンゴ両先生はなんと言っている? ファンからのネガティブ意見をどう思った? ファンを失望させない保証はどこにある?などなど、答えにくいことでも、腹を割って正直に答えてほしい……。 ということで、実写化計画を取り仕切った中心人物・井元隆佑プロデューサー(35歳…原作の雷田さんと同い年!)と対面。多岐にわたって深堀りしたインタビューをたっぷりとお届けする。 【取材対象の紹介】 井元隆佑プロデューサー:【推しの子】実写化の企画・プロデュース。2012年、東映株式会社入社。ドラマ企画制作部所属。東映創立70周年記念映画「レジェンド&バタフライ」(23)では、企画をゼロから立ち上げ、プロデューサーを務めた。他にも映画・テレビドラマプロデューサーとして「刑事7人」シリーズ(EX/17~21)、「三屋清左衛門残日録」シリーズ(時代劇専門チャンネル/18~)、映画「闇の歯車」(19)、「監察の一条さん」(EX/22)、「キッチン革命」(EX/23)等、幅広いジャンルの作品を手がける。 ――「【推しの子】」の実写化を知った際には驚きました。赤坂アカ先生と横槍メンゴ先生の反応はいかがでしたか? また、原作のおふたりはこの作品にどのように関わっていますか? 井元隆佑プロデューサー(以下略):実写化の企画コンペ(※編集部注:複数社が実写化を提案し、そのなかから東映が権利を入手した)の段階で、赤坂アカ先生&横槍メンゴ先生&集英社さんサイドには「映画+配信ドラマの構成でいきたい」とはお伝えしていました。 映画1本分でダイジェストのように描くのではなく、1巻で提示された謎を、ドラマと映画でしっかり回収できるところまで描きたい、という想いは最初からご理解いただけたかと思っています。 おふたりの本作への関わりですが、企画の最初から「赤坂先生に脚本をチェックいただきたいです」と、早々にこちらからお願いしていました。ちなみに、ちょうど原作が4年半の連載に幕を閉じましたが、このクライマックスへの流れは2年前からお聞かせいただいていまして……。 ――結末を2年前から知っていたんですか!? はい、「とんでもないものを聞いてしまった……」と衝撃を受けましたし、その際に「企画コンペで提案したドラマと映画で描く構成は間違ってなかった」とも思えて嬉しかったです。そこからは改めて両フォーマットで描きたいことを整理する作業でした。 クライマックスへの流れを知ったうえでドラマ・映画の行き先を決められたのは本当に大きかったです。「であれば、ここはこういう風にしたい」と、赤坂先生と打ち合わせながら、物語構成やキャラクターの感情面などを作っていけましたから。 一方で、横槍メンゴ先生にはアイドル衣装周り等のデザイン面や、B小町の楽曲についてやり取りをさせて頂きました。おふたりのおかげで、本当に心強かったです。 ――ドラマ・映画の物語は、原作のエピソードのすべてを描いているのでしょうか? 大きな変更点はありますか? ストーリーは、赤坂先生の物語を忠実に描くことを徹底しつつ、構成には挑戦となる要素を組み込みました。配信第1話で“転生前”をあえて一度飛ばしたのは大きな賭けです。その分、映画ではしっかりと表現しています。 更に我々の強みとなるフィールドを駆使して、ドラマ8話と映画1本で物語のクライマックスまで描いています。 一方で、ストーリーの“流れ”は原作に沿いつつも、ディテールでは、どうしても変更や削らないといけない部分がやはり出てきてしまいました。ですが、赤坂先生からは何度か「面白ければOKです」と言っていただけていました。 そのうえで、どうしても取捨選択しないといけないことが、本当に一番つらかったです……。例えば「深掘れ☆ワンチャン!!」のパートは圧縮していたり、ほかにも「このセリフは入らないな」「このシチュエーションは、整合性を取るために省かなきゃいけない」とジャッジしたり……大好きな作品だからこそ、原作のエピソードやシーンを全部描きたいんですが、泣く泣くカットすることが何より心苦しかったです……。 一番悩み、かつこだわった部分でいうと「横槍メンゴ先生の美しい作画をどう現実のビジュアルで映像化するか」でした。【推しの子】以前から存じ上げている、大好きな作家さんですから。 ――ドラマ・映画の一部を先んじて拝見しましたが、赤ちゃん時代のアクアとルビーがヲタ語りをしたり、ぴえヨンが出てきたり、アクアの目に光が宿るなど、原作で印象的だった、しかし実写化が難しそうな細やかな演出も、今回はあえて描写していますよね。シーンの再現に関しては、どういったスタンスだったのでしょうか? 様々な意見があるのは承知の上ですが、私がいちファンとしてやってほしいと思うところはできる限り実現を目指しました。一方で先ほども言ったとおり、「ここは難しい」と思うところに関しては、冷静に判断するようにはしていました。とはいえそれでも、個人の気持ちとしては泣く泣く落としたセリフやシーンばかりです。 そのうえで、ひとつ印象的だったことが、撮影現場での出来事です。原作でアクアと有馬かながキャッチボールをするシーンの「アクアとするのが初めて」というセリフは、ひとつのシーンとしては情報量が多すぎると感じて、脚本からは苦渋の想いで一度、外しました。 ところが現場に行くと、有馬役の原菜乃華さんが、そのセリフを“復活”させてくれたんです。彼女のアドリブです。シーンとしてもしっかり成立していましたし、泣く泣く落としたところを、原菜乃華さんが補完してくれました。ほかにもアクアが、有馬をB小町に勧誘するシーンは原作どおり「有馬に片膝ついて頼む」ようにしてくれたり、原作を読みこんだ役者が芝居で脚本を補完してくれる機会もありました。 とにかく【推しの子】好きが集まり、キャラクターに注ぐ愛情を、一つ一つの芝居やシーンで表現した結果、実現できたことが本当に多くあります。 ――キャスティングの判断基準に「【推しの子】ファン」があったのでしょうか。 もちろんありました。スミスさんと松本花奈さんの監督陣をはじめ、スタッフィングにおいても重視したポイントです。 キャスティングに関してはひとつ、原作好きのほかに、本人のバックグラウンドや素養を非常に意識しました。まさに芸能界に身を置くキャストの皆さんが、生身の人間として演じるからこそのリアルさの追求の為です。これは実写ならではと、感じました。有馬かなだったら天才子役として若くして成功した方がいいと思い、原菜乃華さんにオファーしました。 また、ルビー役の齊藤なぎささんは、アイドルグループ「=LOVE」として東京ドームに立てなかったという背景が、ルビーにリンクされ、素晴らしくストーリーを補完してくれると考えていました。アクア、あかね、MEMちょ他、ご出演の皆さんも同様です。恋愛リアリティショー編のキャストも「オオカミちゃん/オオカミくん」(ABEMAの恋愛番組)シリーズに出演経験のあるメンバーを揃えました。 そしてアイ役の齋藤飛鳥さんの場合は、アンダー(選抜メンバー外)から、センターまで上り詰めている説得力と、アイの陽と陰の一面を魅せるには彼女の性格がマッチするんじゃないかと思い、ご相談しました。一度断られてしまったのですが、めげずにアタックして最終的にはポジティブなお返事をいただけました。 ――現実と役をリンクさせる方法論は、原作の2.5次元編の鏑木プロデューサーと同様ですよね。例えば現実世界でもカップルになったアクアとあかねを、物語上での相手役に起用するという。 そうですね。ちなみに各事務所さんには「撮影期間中に他の作品を縫わないようにしてほしい。それくらい、この作品だけに向き合ってほしい」とお伝えしていました。メインキャストは全員、髪を実際に染めていますが、これは策略で、物理的に縫えなくなるからですね(苦笑)……というのは冗談ですが、キャストの皆さんが朝起きて鏡を見た時に、髪色の染まった自分を見て、役へのスイッチを入れてもらう、そんな狙いもありました。それくらい役に向き合ってほしかったんです。 今回は“大人の事情や会社の都合でキャスティング”を一切しませんでした。原作好きとして、こちらからアタックしたい人に一人ずつ当たっていくことを徹底できました。 ――ちなみに、井元さんご自身の【推しの子】ファン度を教えてください。 “ファン”という言葉の物差しは様々なので、表現は難しいですが、原作は数えきれないほどの回数を読み込みましたし、脚本家・北川亜矢子さんとの脚本づくりの段階で、原作のコマとセリフはほぼ記憶できていました。 私は原作を読んだ際に「実写で観てみたい」「映像として表現できる何かがある」と思ったタイプのファンなんです。そのうえで【推しの子】が好きな1人として、真摯に向き合った結果がいまの作品であり、その姿勢に関しては揺るぎない自信があります。 少し個人の話をさせていただくと、私は35歳ですが、これまで映画「レジェンド&バタフライ」ほかをプロデュースし、大なり小なり様々な経験値を積んだなかで、自分の持つメソッドは全てこの【推しの子】に注ぎ込めました。 ――「本気でつくった」と製作サイドが言っても、原作ファンは簡単には納得しないものですよね。本気度を示せる要素は、なにかありますか? そうですね、繰り返し「本気でつくった」と言っても、なんだか嘘くさく聞こえますよね。実は今回、映画は東映一社で100%出資しています。ドラマシリーズはAmazonさんに多大なご協力を頂いた上で配信となりますが、ライセンス保持者は東映です。 プロデューサーも実質、クリエイティブ面はワンオペで取り組むことが出来ました。もちろん一人で製作したという意味ではないです。シンプルに一人の製作のプロデューサーとして、監督を筆頭にクリエイターたちと“がっぷり四つで”作れる環境でした。 ――このプロジェクトをワンオペは異例ですね。通常は製作委員会方式を取るでしょうから。 製作委員会方式だと、資金面などでリスクヘッジができる反面、(原作ファンか否か関係なしに)さまざまな人や会社、それぞれの都合を聞く必要がありますが、本作に関してはそれは全くなかったです。製作費も(原作が好きな)自分が腹をくくれば「会社の許可をもらってきます」と現場を離れなくて済みました。 僕は「色々な都合でCGがしょぼくなった」と言い訳したくないですし、スタッフに「時間がない」と言わせてしまうのも、納得できません。お金や時間に対する責任は取ると腹を決めていました。もちろんいたずらにお金をかければ良いかということでもないので、しっかりとかけるところ、かけないところのON・OFFは各スタッフの皆さんに協力をお願いしていました。 この作品だけに集中する時間や体制を敷いてくれた、会社には本当に感謝しています。原作権を獲りに行った時から現社長の吉村文雄に相談していて、東映はモノづくりの最高の環境を整えてくれました。 ――本作は、まるでB小町が現実に存在するかのようなプロモーション展開をされています。撮影段階から決まっていないと、映像・画像素材の確保が難しいのではないかと思いましたが、早期から構想されていたのでしょうか。 最初に原作を読んだときに、コマから音楽が流れてくる感覚があったことをよく覚えています。なので、ドラマ・映画で音楽も頑張りたいと思っていました。 まだアニメ第一期の放送前の段階から実写化は動いていました。「B小町を本当にアイドルとしてプロデュースしたい」と考えていたので、となるとまず楽曲が大切だなと。B小町が歌う楽曲は「YOASOBI」のプロデューサーであるソニー・ミュージックエンタテインメントの屋代陽平さんと山本秀哉さんに相談したんです。 屋代さんと山本さんは私の業界同期で、監督を決める前から声をかけていました。「B小町用の楽曲をマジで作ってくれないか」と相談したら、「ちょうどいまアニメに向けて楽曲(『アイドル』)を作っているよ」と言われ、「ちょうどよかった!」と(笑)。 彼らにとって劇中のアイドルユニットの曲を書き下ろすのは初めてで、苦労させてしまったかもしれませんが、真摯に向き合って素晴らしい曲を作ってくれました。その間、彼らと「アイドル」はご存知の通り、爆発的にヒットしていきましたね。 また、仕掛けをたくさん用意できる作品だったので、制作期間中もずっと宣伝のことを考えて、同期の宣伝プロデューサー・寺嶋将吾に「これをやりたい、あれをやりたい」とリクエストしまくっていました。たとえば「MEMちょがB小町に勧誘された瞬間のショットを絶対に写真で押さえてほしい。撮影止めてでもいいから。原作ファンの方が見比べて“ちゃんと表現されている!”と思ってくれたら最高だから」と伝えていました。 ――【推しの子】実写化の第一報では、世間の反応は様々だったかと思います。井元さんは反響をどう受け止めましたか? この仕事をやっていて一番悲しいのは、“届かないこと”です。企画前から賛否があるのはわかっていましたし、発表によってまず知ってもらえたこと、たくさんの反応があったことに安堵しました。 もちろん、ネガティブ意見をみて、改めて原作の恐ろしいまでのパワーを痛感し「ちょっと怖い」と思うことはありましたが、これだけ世界中から愛される作品を任された以上、ここからいかに“正しい順番”で情報を伝え「この作品を面白そうだ」と思ってもらうお祭り状態に出来るか、改めて気合いも入りました。 ――最後に改めて、【推しの子】ドラマ・映画への想いを教えて下さい。 私たちは、ファン代表ではありません。ファンにも色々な形がありますから、そこで争いたくないんです。ただ、大好きな作品の原作権を委ねてもらった嬉しさだけでここまで突き進んできました。純粋に【推しの子】という作品が大好きなだけなんです。漫画も、アニメも大好きです。2.5次元の舞台も楽しみにしています。 正直に言ってしまうと、楽しかったのは原作権をいただいた当日だけで、そこからは苦しみやプレッシャーと闘う日々ではありました。制作発表にあたって書かせていただいたコメントに「初めて原作を読んだ日のように『【推しの子】のいちファンに戻れたら』と幻想してしまうことすらあります」と書きましたが、そうした気持ちはあります。 しかし、大好きな作品のプロデュースを務めさせてもらえるなんて、こんなありがたいことないです。だからこそ、とにかくやりきりました。一人でも多くの方に届いてくれることを祈っています。 映画「【推しの子】 The Final Act」は、12月20日から劇場公開。ドラマシリーズ【推しの子】は、Amazon Prime Videoで全8話が配信中。