「ハッカーの数はFBI捜査員の50倍」 自衛隊の機密情報も盗まれ… 中国によるサイバー攻撃の実態 「第2次世界大戦に負けたのと同じ状況」
米政府の焦りと不満
NSAは世界有数のサイバー防衛・攻撃集団を擁し、世界各地の通信を幅広く監視している。米政府関係者は筆者の取材に対し、「中国政府系ハッカーは自衛隊の防衛計画や防衛能力、欠点評価などの情報にもアクセスしており、米国側から見ても日本にとっても、近年で最も深刻なハッキング事案だと報告した」と証言する。 20年秋、トランプ政権で大統領副補佐官として安全保障問題を担当していたマット・ポッティンジャー氏が、NSAのポール・ナカソネ長官(当時)とともに来日している。無論、理由は岸信夫防衛大臣(当時)などに状況を説明し、迅速な対応を求めるためだ。 にもかかわらず、日本は1年近くが過ぎても状況を改善させず、その後も米政府は中国軍ハッカーが日本の防衛ネットワークにアクセス可能な状態にあることを確認した。そこで米国がバイデン政権に移行した後の21年11月18日、今度はアン・ニューバーガー国家安全保障担当副補佐官(サイバー・先端技術担当)が来日。その事実を日本政府に伝え、改めて対応を求めた。 前出米政府関係者が言う。 「残念ながら日本に機密情報を提供し共有しているわが国としては、日本の対応は満足できるものでなかった。その不満が、昨夏のワシントン・ポスト紙のリーク記事につながったということだ」 この記事に関して、自衛隊のサイバー防衛隊関係者は困惑気味に言う。 「あの記事が出るまで、ウチの防衛システムが中国にハッキングで侵入を許していたなんて、聞いたことがなかった」 つまり、自衛隊のシステム保全を担う現場には、米国からもたらされた最初の警告が届いていなかった可能性が高い。
外交関連以外の通信も……
日本の機密情報が、中国政府のサイバー工作によって盗み出されるケースは防衛分野にとどまらない。今年2月5日、読売新聞は〈外務省公電漏えい 米警告 中国がサイバー攻撃〉とのタイトルの記事を1面トップで報じた。そこには〈外交上の機密情報を含む公電をやりとりする外務省のシステムが中国のサイバー攻撃を受け、大規模な情報漏えいが起きていたことがわかった〉とある。 外務省は本省と大使館をはじめとする在外公館との公電などを、一般的なインターネットを使わない閉域ネットワーク「国際IPVPN」を介して暗号化した上で送受信している。この記事は、その通信が中国のサイバー攻撃で傍受されていることをNSAが発見し、20年の時点で日本政府に改善を求めていたことを取り上げたものだ。言うまでもなく、米国は日本と共有した情報が日本から中国に漏れることを危惧していた。 しかも、これは外務省の問題にとどまらない。在外公館には防衛省の防衛駐在官や、警察などから派遣される警備対策官といった政府関係者が数多く赴任している。彼らも大使らと同じ外務省の国際IPVPNを利用して所属省庁と情報をやり取りしている。つまり、外交関連以外の通信も中国の政府系ハッカーに読み取られていた可能性は否定できないのだ。