全国でじわり広がる「ラーケーション制度」、最新事情から課題まで、新しい学びと休暇のカタチを取材した
公平性、学習進度への対応が課題に
本格的な導入から半年が経ち、課題も見えてきた。愛知県が実施したアンケートでは、「勤務先の理解がないと休めない」(保護者)といった周知に関する課題のほか、ラーケーションの目的の一つに学びがあるとはいえ、「学習の進度が心配で、学校を休ませることに不安がある」(保護者)との授業進度を危惧する声も挙がった。 愛知県の自治体の中でも唯一、名古屋市はラーケーションを2023年度に続き、2024年度も導入しないことを決めた。市民からの「子どもと一緒の時間を名古屋市も対応してほしい」との声もあるが、名古屋市教育委員会は「『休み方改革』の全体的な趣旨については理解している。しかしながら、ラーケーションについては、取得できる児童生徒とできない児童生徒が混在するなど、導入に向けた懸念や課題が様々あることから現時点では、導入する予定はない」と、主に公平性、学習補充の観点から導入を見送った理由を説明している。 経済的な事情も課題の一つだ。愛知県とともに全国に先駆けて導入した別府市は2023年度、「たびスタ」の条件を「保護者などと市外に旅行する場合、年度内に3日まで」としていた。市の聞き取りによると、取得者あるいはこれから検討する人たちの満足度が非常に高かったため、日数を2023年度の3日から4日に増やす一方で、行き先を市外に限定せず、市内外に問わず旅行できる場合へと改訂した。別府市の担当者は「混雑が少なくのんびり過ごせる家族旅行を通じ、さまざまな土地の文化や習慣、食べ物などから異文化への理解が深まるとの方針に変わりはないが、選択肢を広げため、市内外を問わず旅行する場合に取得できるようにした」と話す。 観光需要の平準化、地域経済の活性化、従業員のワークライフバランスの向上、探究学習など、さまざまな観点から注目が集まるワーケーション。名古屋市が指摘するように、公平性、教育現場の体制整備といった課題は残されているが、観光産業に新たなチャンスとなるのは間違いない。愛知県の大村知事は前述の「JATA経営フォーラム2024」で、「改革は愛知県だけで、そして行政だけで進められるものではない。観光産業とも連携しながら、休み方改革を日本全国に広げるために取り組んでいきたい」と話している。
トラベルボイス編集部