「シャープ」は世界に誇る技術をもちながら、なぜ台湾企業に売られることになったか【プロの投資家が解説】
長期投資家の澤上篤人氏と、「四季報読破」の達人・渡部清二氏。プロの投資家として活躍する両者が対談形式で、日本企業と金融市場のパワーバランスについて解説します。 【早見表】年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
長年赤字も…「株主のハート」を“がっちり”掴んでいる石井食品
渡部 石井食品の株主総会がすごく面白かったんですよ。石井食品は長年赤字なんですよ。株価もずっと200円前後で上がらないんですよ。 ただ、株主総会に行ってみると、この会社はすごいなと感じました。株主総会は、船橋の市民ホールみたいなところで行われていまして、出席者が200人以上で、会場が縁日みたいになっているんです。つまり、自社の商品をズラリと並べて、売っていて、それを株主が買っているんです。 赤字なんですが、株主はそれに対して不満は少しも言わない。それよりも、自分の好きな商品が棚から消えているから、もう少し営業のほうに人を回して欲しいとか、そういう要望が質疑応答の際にされるんですよ。 これはどういうことかというと、「株主=石井食品の消費者」なんですよ。こういうことって最近の企業ではほとんどなくて、むしろ、会社は株主総会を敵視しているケースばかり。ところが石井食品は、「株主=消費者」で、すごく一体感があるんですよ。 総会の最後に、創業家の石井会長が「うちは安心安全な製品を売っている。だから国産にこだわっている。ところがおせちをつくったら、栗きんとんに雑菌が入っていた。これは実は海外から仕入れていて、日本で加工をしようと考えていた。そのため、急きょ、この栗きんとんを国産に切り替えたら赤字になってしまった」と、赤字になった理由を説明したんですよ。 その発言のあと、株主から赤字に対して文句が出るのではなく、むしろ、「やっぱり石井食品は素晴らしい」と大絶賛になった。驚きました。真(まさ)に、「株主=消費者」で、株主が会社を応援しているんですね。
シャープは金融市場に殺された
渡部 なぜシャープが結局、台湾に売られることになったかというと、金融マーケットからある意味、嫌われたわけですよ。シャープは、悪いことは何もしていない。 野村證券の企業金融、つまり、インベストメント・バンキングの担当者に、「どうしてシャープのようないい会社を助けようとしないんだ」と私は言ったんです。野村もリスクを取って、公募とか、公募でなくともシャープを助けるためのいろいろな方法があった。 ところが担当者は、「だって儲からないじゃないですか」と答えたんです。今でも、その言葉はよく覚えています。「シャープは、プラズマクラスターとか、液晶とか、まさにメイドインジャパンの素晴らしい製品をつくっているのに、そんなすごい会社をお前の『儲からない』の一言で潰してしまうのか!」と思ったんですよ。 その結果、短期で儲からないからと金融市場に殺されてしまった。社会的に悪いことは何もしていないのに。あの時は、すごく嫌な気分になりました。