「動画クリエイターの裏方の地位を上げたい」水溜りボンド・カンタとArks・田口拓朗が語る“YouTubeに捧げた10年”
400万人超えのYouTube登録者を抱えるチャンネルのブレイン的役割を担い、「佐藤寛太」名義でミュージックビデオなどの映像作家としても目覚ましく活躍する水溜りボンド・カンタ。 【写真】水溜りボンド・カンタ&Arks・田口拓朗の撮り下ろしカット プラットフォーム・創作形態の垣根を超えて活躍する彼と優れたクリエイターが、クリエイティブの源流を含む創作論について語り合う連載企画「クリエイティブの方舟」がスタート。 第1回は、Arks株式会社のCEO/Director・田口拓朗が登場。コムドットのリーダー・やまとを支援し、躍進に貢献した実績を持つ田口。カンタとは同じ青山学院大学出身であり、2016年から水溜りボンドのアシスタントを務め、共に映像制作/SNS運用支援を手掛ける同社を設立した旧知の仲だ。苦楽を共にした仲間である彼らはこれまでの歩みやそれぞれの性質をどう見ているのか。(編集部) ・お互いの第一印象 実は水溜りボンドの動画に出演経験も カンタ:初めて会ったのは、大学に入学してすぐだったよね? 田口拓朗(以下、田口):そうそう。同じ学部だったから、「みんなで遊ぼうぜ!」ってなって、そこから仲良くなった。カンタは内部生だったんだけど、俺は大学から入ったから、交流会みたいなのも兼ねて。 カンタ:一緒に、教室移動してたのとか懐かしいね。サークルも一緒だったし! あの、オールラウンドサークル! 田口:一緒って言っていいのかな?(笑) カンタはすぐ辞めちゃったけど。 カンタ:ほんとにちょっとしかいなかったよね(笑)。まぁ、一緒だったってことで! 田口:ただ、グループみんなで遊んだりはしてたけど、カンタと2人でとかはあんまりなかった気がする。 カンタ:たしかに。みんなは「この2人が一緒に仕事するようになるなんて」って驚いてるかもね。 田口:うん。こうなるなんて、想像もしてないだろうね。 カンタ:俺の第一印象って、どんな感じだった?(笑)。俺は、拓朗と初めて会ったとき、「細い!」って思ったんだけど。あとは、髭がないなぁって。 田口:髭は、いまと比較してるからでしょ! それでいうと、カンタもすごい細かったよ。 カンタ:いやいや、平均的だったって(笑)。でも、仲良くなってみると、バランサーだなって思うようになった。 田口:マジで? カンタ:うん。なんか、“みんなで仲良くしようよ”って雰囲気を醸し出してなかった? 仲間はずれを絶対に作らない人だなって。 田口:たしかに、そういう部分はあったかも。だから、いつも大人数で遊んでたよね。15人とか。 カンタ:懐かしいなぁ。そういえば、大学のころ、水溜りボンドの動画に、拓朗が出たことあったよね? 田口:あるある。あの、宝くじの動画! カンタ:TVでよくやっている星座ランキングが、本当に運勢に影響するのか検証する企画だったんだけど。 宝くじに星座占いトップ3の激運男で挑めば必ず当たる 田口:大学の構内を歩いてたら、「何座?」って聞かれて、「天秤座だよ」って答えたら、「宝くじ買いに行こう!」って。 カンタ:俺とトミーの星座が、1位と3位だったから、2位の天秤座を探してたんだよ。3人で宝くじ買いに行ったよね(笑)。 田口:(動画を見返しながら)たしかにいま見ると、全然ちがうなぁ……。 田口が語る“大学時代&YouTube活動黎明期のカンタ” 田口:カンタは大学のときからすごく努力家だったよね。 カンタ:そうかな? 田口:うん。お笑いにすごい情熱を注いでたじゃん。学内ライブを開催したときも、大きな教室がパンパンになってて、純粋にすごいなと。打ち込み方が体育会の部活みたいだったもん。 カンタ:そこから、YouTubeクリエイターになるって聞いたときはどう思った? 田口:マイナスなイメージはなかったよ。お笑い同様、YouTubeに対しても、一生懸命打ち込んでいくんだろうなって。 カンタ:チャンネルを開設してすぐのときから、拓朗にはいろいろ語ってたよね。 田口:うん。目標を書いたノートを見せてくれてた。「ここまでには、この数字に到達したい」とか。熱意がすごいなと思ったから、なにか協力したくて、まわりに「チャンネル登録してね!」って布教してた(笑)。 カンタ:本当にありがたかったなぁ。当時の俺ってさ、笑いを取りに行くタイプじゃなかったじゃん? 「一発ギャグやりまーす!」とかさ。 田口:まったく違うね。 カンタ:だから、顔を出してYouTubeをすることに対する恥ずかしさもあったんだよ。「キャラ違うじゃん!」みたいにならないかな? って。友達とどんな距離感で話したらいいのか……とか、いろいろ考えちゃってた。 田口:そんなの、考えなくていいんだよ。 カンタ:拓朗は「別にいいじゃん」と言ってくれる人だったから、相談してたんだと思う。そのころからかな。YouTubeの悩みとかを、拓朗に相談するようになったのは。 田口:たしかに。定期的にいろいろ話してくれてた気がする。あとは、俺が留年したっていうのも大きいんじゃない?(笑) カンタ:それも大きい! やっぱり、大学を卒業して、みんな社会人になるわけじゃん。そうすると、「動画クリエイターはいいよね」みたいに言われることが増えたんだよ。動画クリエイターなんて、来年どうなるか分からない職業で不安だらけなのに。 田口:たしかに、朝起きて「YouTubeの収益化を停止します」なんて言われたら、おしまいだもんね。 カンタ:でしょ? でも、仲良いクリエイターがいても、なかなか相談ができなかったりして。そんなとき、拓朗は留年してたからいつもいるんだよね(笑)。 田口:俺もちょうど遊べる人がいなくなって寂しい時期だったから、ちょうどよかった。 カンタ:「スタッフとして、一緒にやらないか?」って誘ったのは、YouTubeの登録者数が100万人を突破したときくらいだよね。 田口:そうそう。 カンタ:100万人達成した日は、Xで数えきれないほどのおめでとうコメントが来てたの。でも、その日はお祝いをするわけでもなく、普段通り編集をしてて。 トミーは誰かに祝ってもらったりするのかな? と思って、午後は休みにしてたから、俺は青学の体育館でバトミントンの試合を観てたの。 田口:そんな記念すべき日に! カンタ:そう(笑)。でも、直接「おめでとうございます」って声をかけてくれる人なんていなくて、ネットと現実は違うなってことに気づいた。そのとき、もっと上を目指すためには、裏方として企画出しをしてくれる人が必要なんじゃないかな? と思って、拓朗が浮かんだんだよね。 田口:それで、電話が来たんだ。 カンタ:そうそう。 ・田口とコムドット・やまとの出会い カンタの叱咤激励がきっかけ カンタ:でも最初は拓朗が暇そうだから、腹が立ったこともあった(笑)。 田口:カンタは毎日投稿ですごい忙しそうだったもんね。 カンタ:そう。だから、「拓朗もなんかしろよ!」「ブログ書けよ!」って言って。 田口:「お前も毎日投稿の辛さを味わえ!」ってね。 カンタ:俺の切羽詰まってる感じとか、実際に自分で体験しないと伝わらないだろうなと思ったから。ちょっとした悪意も込めて(笑)。正直、当時は辛かったから、汗かいてくれる仲間が欲しかったんですよね。YouTubeといった同じ競技じゃなくても、熱いやつが欲しかった。 田口:なるほどね。でも、ブログなんてまったくやったことがなくて、、一から勉強してやりましたよ。 カンタ:そしたら、結構ブログにハマっていったよね? 田口:そうそう。始めてみたら、数字を伸ばしたくなるんだよね。コーナーを考えてみたり、有名な動画クリエイターの方に取材をさせてもらったり。 カンタ:ブログがきっかけで、コムドットのやまとと仲良くなったんだっけ? 田口:深く関わるようになったのは、その数年後かな。後輩に「YouTubeを本気でやろうとしてる友達がいて、一度会ってほしい」って言われて、会ったのがやまとだったの。 カンタ:あれって本当の初期だったよね? 田口:うん。登録者数500人くらいだったかな。原宿の駅前で、声かけをしてた時期。 カンタ:やまとって、拓朗の経験をしっかり吸収して大きくなっていったんだなと思う瞬間が、多々ある。そういえば、やまとに初めて会ったとき、「初めて会った気がしないです」って言われたんだよね。 田口:えっ、それはなんで? カンタ:なんか、拓朗と俺が似てるらしい。 田口:似てるかな? 自分たちでは分かんないね。 カンタ:うん。「なんか、雰囲気が」って言ってた。 人か企画か カンタが考える“伸びるチャンネルの傾向”とは カンタ:水溜りボンドは企画力で伸びたチャンネルだと思ってて。でも、YouTubeを始めて2年目くらいかな。東海オンエアやフィッシャーズと同じ企画をやっているのに、明らかに再生回数の伸びが違うって気づいた瞬間があったの。 企画で人を集めていると、バズるのは早いかもしれないけど、企画次第になってしまう。でも、人が愛されてたら、なにをやっても見てくれるよねって。 田口:それはやまととも話したことがある。最初に「人でいくか? 企画でいくか?」って聞いたら、やまとは「人でいきたい」って答えてた。 カンタ:人自体にファンがつくと、伸び始めたら強いんだよね。コムドットは1個前の世代のノウハウを踏襲しながら、自分たちのなかに落とし込んでいるイメージがある。「すごい優秀な二世が現れた!」って思ってるもん。 田口:カンタとやまとも、ちょっと似てるんだよね(笑)。やまととご飯に行くと、ノートにメモ取ってる。 カンタ:やばっ!(笑) 俺じゃん! そういえば、前にやまとと話したとき、「メモ取っていいっすか?」って聞かれたことあったな。そのとき、「俺、自分と電話してんのかな?」って思った。 ・カンタが“盟友”を社長に指名した理由 カンタ:やっぱり、動画クリエイターの裏方って名前のない仕事じゃん。拓朗は俺と10年一緒にやってきてくれたわけだけど、その先になにがあるんだ? って考えることとかもあって。 田口:そんなこと、考えてたんだ。 カンタ:うん。それで、なんかすごい奴になってほしいなって思ったんだよね。 田口:なんかすごい奴? カンタ:だって、こんなに熱量持ってやってくれる人いないと思うもん。それこそ、俺が100キロマラソンを走るときも、GoProの充電をしてくれてたでしょ? 充電をするために、近くのファミレスで徹夜してたって聞いたとき、びっくりした。だから、俺にとってはすごい恩があるの。会社を立ち上げるときに、拓朗が社長になるのは自然な流れだった。 田口:周りからは、「友達と会社を立ち上げるって大丈夫なの?」って心配されたりもしたけど、俺はカンタの性格を知ってるから、絶対に大丈夫だって思えたんだよね。無理やりブログを書かせてもらいながら、ここまで成長させてもらってきたわけだから(笑)。 カンタ:言い方!(笑) 田口:一昨年の末かな? 会社の立ち上げを聞かされたときは、自分自身に価値をつけないといけないなと思っていたタイミングでもあったんだよね。 カンタ:俺も正直、裏方の収益を水溜りボンドの収益だけでまかなっていくのには限界があると思ってて。ライフステージが変わっていくごとに、果たすべき責任も増えていくと思うから、年齢とともにみんなの給料を上げてあげたい。でも、動画クリエイターとしての活動だけでは、約束してあげることはできない。たとえば、「炎上したから給料払えないわ」とか、10年もついてきてくれたメンバーにしたくないし。 田口:カンタは責任感が強いから。 カンタ:それが、俺のなかで、重荷になっていた部分もあったのかもしれない。たとえば、案件とかも、「よく分からないけど、みんなのために受けとくか!」とか思うようになっちゃって。 田口:それは、ダメだね。 カンタ:でしょ? インフルエンサーとしても、健全ではないなって思ったの。そもそも、拓朗もそのほかのメンバーもそんなことは求めていないし。だから、会社を設立して、「みんな、出航だ!」って。 ・YouTubeが天職だったからこその“弊害” カンタ:昨年の年始にArksのメンバーに、叶えたい目標をプレゼンしたよね。 田口:うん。2時間くらいかな。スライド7枚くらい作ってくれて。 カンタ:そしたら、昨年の目標は見事に達成できた……っていうか、1年先くらいまではできちゃったんじゃない? 田口:そうだね。最近はカンタが紹介してくれたわけじゃない人からの依頼もくるようになったし。そのおかげで、みんなそれぞれ自覚が出てきたなって思ってる。 カンタ:テニスにたとえるとしたら、いままでは俺がプレイヤーで、みんなは玉出しをしてくれてた感じなんだけど、会社を立ち上げてからはみんながプレイヤーになったなって思う。みんなで汗をかいている感じがいいよね。 田口:みんながブログを書いてる感じ(笑)。 カンタ:そうそう(笑)。なんか、みんなでカッコいい大人になっていけてるのが、すごくうれしい。 田口:ただ、いまはまだ“水溜りボンドのカンタ”が信用されていることによって、成り立っている会社だと思っている。だから、提供するサービスも、しっかり信頼されなきゃいけないなって。むやみやたらに大きくするというよりは、じっくり時間をかけて、大きくしていきたいんだよね。 カンタ:そうそう。俺も1年や2年で大きくしようとは思ってない。だから、オフィスも……。 田口:オフィスはもっと大きくした方がいい! パンパンだから(笑)。 カンタ:俺の性格上、最初から大きなオフィスを借りるのが怖かったんだよ。粛々と朝練をして、夜練して、大会で結果を出しても喜ばずにすぐに帰って、トレーニングをするぞ! みたいな。そんな生き方をしてきたから。 田口:カンタイズムね。 カンタ:ただ実はみんなを見てて、考えが大きく変わったことがあって。これまでは「絶対にバズらせます」って言葉を信じてなかったの。10年も動画クリエイターをやってたら、絶対にバズるなんて無理だってことが分かってたから。 田口:まあ、そうだね。 カンタ:でも、絶対にバズるのは無理だけど、確率を上げることはできるんだなって思うようになってきた。 田口:たしかに、俺もそこを目指して頑張っていきたいと思ってる。 カンタ:そういえば、毎日投稿をしていたころとかはさ、毎日会ってるのにプライベートの話とか一切しなかったじゃん。 田口:カンタの口から、YouTube以外の話が出てこなかった(笑)。 カンタ:つい2年くらい前まで、YouTubeの話ってみんな楽しいもんだと思ってたんだよ。だって、俺がこんなに楽しいし、24時間ずっと聞きたいでしょ? って。 田口:まったく(笑)。 カンタ:でも、最近違うんだって気づいたの。人のことを考えられるようになりました(笑)。 田口:カンタはストイックなんだよね。しかも、YouTubeが大好きじゃん。まさに、天職だったんだと思う。 ・「動画クリエイターの裏方の価値を上げていきたい」 カンタ:拓朗はこれから会社をどうしていきたい? 田口:公式サイトにも記載してあるけど、やっぱり社会貢献はしていきたいと思う。会社がいまよりもっと成長して、余力ができたらになってしまうかもしれないけど。SNSには、社会を動かす力があると思うんだよね。たとえば、出来の悪かった野菜を売るために、SNSでプロモーションをしてみたり。 カンタ:たしかに。特に俺たちは、SNSの力を感じてきたもんね。 田口:あとは、動画クリエイターの裏方の価値を上げていきたいと思う。やっぱり、大規模のチャンネルになってくると、みんな俺みたいな裏方がついていると思うんだよね。その人たちにとっての道標にもなりたいな。 カンタ:それは、俺も思ってる。動画クリエイターは裏方の仕事に支えられている部分が大きいから。 田口:ところでカンタ、アメリカはいつ行くの?(笑) カンタ:言ってるだけになってるよね(笑)。 田口:本当だよ! カンタ:30代って、長いじゃん。次、どこを目指して走るかで、大きく変わると思うんだよ。 田口:たしかにね。 カンタ:手前の方で目標を立ててたら、そこで止まっちゃうだろうし。ただ、バズらせ続けないとやばいとか、そういう時代ではなくなってきてるんじゃないかと思ってる。だから、海外に行ってもいいじゃん! って気持ちになるかもしれない。実際、俺がYouTubeを始めたころよりも、動画クリエイターが有名になりづらくなっているじゃん? 田口:俺もそれは感じてる。 カンタ:ショート動画が流行している影響もあると思うんだよね。初期のころは10分の動画がデフォだったのに、ショート動画って1分でしょ? 1組の動画クリエイターを知る時間で、10組を知れる時代になってる。“推し”と言われる人が10倍に増えているとも考えられるから、競争率が上がるのは当たり前だと思う。 田口:たしかにね。 カンタ:僕と同じ焦りを10倍の人が感じるようになっているから。10年間も動画クリエイターをやってきた身として、悩んでいる若手には手を差し伸べてあげたいし、理想像であり続けたいなと思ってる。
中村拓海、菜本かな