奇跡ではなかった。西野J「サランスクの大金星」が生まれた理由とは?
5月21日に合宿がスタートして以来、西野監督は戦い方の細部を詰めることを選手たちに委ね、ディスカッションを奨励してきた。また、ロシアに入る直前までメンバーを固定せず、最適の布陣、最適の組み合わせを模索した。 準備期間が3週間しかなかったことを考えれば、ギャンブルに近いトライだったが、選手間でディスカッションを何度も行ったことで細部に至るまで選手全員に共有され、直前まで全員にチャンスがあったことで全員のモチベーションが高まり、一体感が生まれた。長谷部がロッカールームの様子を明かす。 「今日だけじゃないですけど、圭佑は試合に出ていないのに、ロッカールームで一番声を出していますから」 この勝利は4年前のリベンジであると同時に、代表チームを取り巻く重苦しい雰囲気を吹き飛ばす勝利でもあった。4年前にもゴールを守っていた川島永嗣は力を込める。 「相手が3分で10人になったので、一概には言えないですけど、4年前、自分たちが感じた悔しさをこの試合で晴らせたのは大きなことだと思うし、あの試合から時間が止まっていた部分があったので、いろんな意味で自分たちの時間が動き出したと思う。監督が替わり、厳しい状況のなかで自分たちにとって自信になったのかな、と思います」 もっとも、この価値ある1勝はグループステージ突破を保証するものではない。 それは、ほかでもない西野監督自身がよく分かっていることだろう。オリンピック代表を率いていた22年前、初戦でブラジルを、第3戦でハンガリーを下して2勝をあげながら、決勝トーナメント進出を逃している。指揮官は言う。 「あのときは次のアフリカの代表にやられているので。そのあとハンガリー、今回はポーランド。同じような対戦相手なので、同じ轍は踏まない」 喜ぶのは今日1日限り。その日のうちにベースキャンプ地であるカザンに戻った日本代表は翌日からグループステージ突破に向けて、チーム一丸となってセネガル対策に取り組んでいく。 (文責・飯尾篤史/スポーツライター)