奇跡ではなかった。西野J「サランスクの大金星」が生まれた理由とは?
ゲームコントロールと、コミュニケーションによるゲームプランの共有である。 1点リードした時間帯では攻め急がずにボールを動かしてコロンビアを焦らして揺さぶり、キンテーロのFKによって同点に追いつかれたあとは、セーフティに1-1のままハーフタイムにこぎつけた。 後半、コロンビアの運動量が落ち、引いて守ってきたのを確認すると、押し込みながら、カウンターへのリスクマネジメントに細心の注意を払い、本田圭佑の投入とともに勝負を掛けた――。その狙いを全体で共有し、ピッチ内で混乱することがなかった。 「焦らないように、前がかりになりすぎてカウンターを食らわないように、1-1でも最悪OKっていうくらい割り切ってやっていましたし、個人的にも、それを周りに伝えていました」 吉田麻也がそう明かせば、素晴らしいパフォーマンスを見せた昌子も語った。 「練習では通っていた声が、ここでは通らない。でも、チームとしてこれまでディスカッションしてきた結果、誰がスイッチを入れるのか、どこでスイッチを入れるのか、今日はすごくハッキリしていた。それが本当に良かったんじゃないかなと思います」 キャンプを通じて選手たちは、スコアや状況に応じてどう戦うか、ディスカッションを積んできたという。その成果が、大一番ではっきりと表れたのだ。 後半、先に動いたのはコロンビアだった。59分、ハメス・ロドリゲスが投入される。そのスルーパスによって守備網をズタズタに切り裂かれた4年前の記憶が蘇るが、そのときと大きく違うのは、ハメスが手負いだったことだ。 傷めている左ふくらはぎの状態がかなり悪いのか、プレーにキレがなく、運動量も圧倒的に少ない。 「ブンデスリーガで見る本調子のハメスとは程遠い感じがした」と長谷部誠は言う。 むしろ、ハメスが守備をしないことで助けられた場面があったほどだった。 ハメスを加えたコロンビアの攻撃を見切ったところで、満を持して本田が投入されると3分後、コーナーキックから決勝ゴールが生まれた。 ここまで左コーナーキックは右利きの柴崎が蹴っていたが、この場面では左利きの本田が蹴った。右足によるゴールに向かっていくボールから、左足によるゴールから離れていくボールへ。身体を伸ばすようにして頭で合わせた大迫の技術もさることながら、ボールの軌道を変えたことも大きかったに違いない。本田が振り返る。 「練習でやっていたことが出た。大迫は練習でもCKからよく点を取っていたから」 ハメスにフリーでシュートを打たせた78分の最大のピンチも大迫が身体を張って防げば、原口元気が身体を投げ出し、乾貴士がカウンターのピンチを潰し、途中出場の岡崎慎司が前線でボールを追いかけ続けた。 そして、アディショナルタイムに入って5分が経ち、長友佑都がタッチラインに大きくクリアした直後、試合終了を告げるホイッスルが吹かれた。 ベンチの選手たち、スタッフがピッチの中になだれ込んでくる。その中には殊勲の大迫、香川の姿がある。 一方、最後まで身体を張った原口は自陣のペナルティエリア付近に座り込み、精も根も尽き果てた、といった表情で天を仰いだ。 「すごく嬉しかったけど、すごくキツかった。それが報われてよかった。最後の5分間はもう倒れそうでしたけどね」