「Ultraman: Rising」世界の大地に立つ―自由になったウルトラマンが特撮を超え、歴史を超える日
2024年6月14日、ついに「Ultraman: Rising」が配信を開始した。北米のスタッフによる、北米の制作体制で作られたフル3DCGのウルトラマン作品である。ウルトラマンの新作がネットフリックスで見られる時代になるとは隔世の感がある。それは「日本の原作映像がハリウッドでリメークされる」というような簡単な話ではない。これまでウルトラマンと名がつくものが他国で制作されるには、さまざまな障壁があった事を筆者はよく知っているからだ。 【動画】たとえ何があってもウルトラマンがそばにいる「Ultraman: Rising」予告編
取り払われた事業的不具合
ウルトラマンは1966年、円谷プロダクションによって生み出された。東宝の資本を受け、特撮を体系化した巨人・円谷英二の率いる同社は、TBSの支援もあってテレビ映画に参入する。そのシリーズ第2弾に登場した主役、光の超人がウルトラマンである。彼は日本中の子どもたちを瞬く間にとりこにし、そして混沌(こんとん)とした時代に光を照射していった。 その時代、著作権や版権を基点としたマーチャンダイジングは、一般的に認知され、システム化されたビジネスモデルでは決してなかった。円谷粲(あきら=円谷英二の三男)の話では、地方で勝手に商品化されたりすることも多く、突然、地方の事業者が「すいません、勝手に商品を作ってもうけ過ぎたので報告に来ました」と、おわびの品を持って上京してきたほどだ、という。それほど〝キャラクターを勝手に使う〟ことには違法意識の無い時代であったし、ウルトラマンのキャラクターとしての商品力は絶大だった。 一方で現代のような会計基準が厳格ではない当時、プロジェクトごとの収支管理がなされることもなく、決算時に黒字かどうかだけを判断するような、緩い経営期間が長かったのが同社である。作品ごとの収支が計測されずとも、放映権を中心とした権利を海外で取引することができてロングテールの収入が重なり、それは同社がマーチャンダイジング収益に依存し、収益管理を甘くしていく体質の大きな要因となっていった。 そしてそんな時代の、あるひとつの取引によって、長い間、海外での自由な事業化にキャップがなされていたのがウルトラマンなのである。そしてそのキャップがようやく取り払われたのが数年前の事だ。経営権の移譲と共にその事業的不具合は完全に改善された。雌伏の時を越え、ウルトラマンはついに世界を相手に立ち上がったのである。