人知れず残る“物言わぬ証人”戦争遺跡 「新たな戦前」の時代にあの日の記憶を静かに伝える 【福岡発】
小高い住宅地の公園に残る高射砲跡
戦後の宅地化などによって大半の戦争遺跡は失われたが、開発を免れた場所には、手つかずの状態で残るケースも多い。「市民の日常生活から、ほんの3、4メートル入ったら79年前の戦争遺跡がそっくり残っている」と続いて案内されたのは戸畑区。斜面に広がる住宅地の中にある牧山展望公園だ。周囲に住宅地が広がっているが、その一角に戦争の痕跡が未だに残っている。 「ここは7センチ高射砲を6門据えていた。1門ごとにコンクリートの土台を築いて、その上に大砲を据えていた。その土台の部分。突き出た金属はボルトで、ここに大砲の砲座を据えてナットで固定していた」。 街を見下ろす小高い場所に据え付けられていた旧陸軍の7センチ高射砲跡。北九州市内にはこうした高射砲が46個中隊270門設置され、製鉄所や軍需工場を狙った敵の空襲に備えていた。
物言わぬ戦争遺跡が問いかける平和
公園の中にあり誰でも見に来られるのに、知られていない戦争遺跡。「いかに若い人につないでいくか。小中学校で教えるのが一番いいんでしょうけど」と話す前薗さんは、この夏、北九州市で開かれた戦争遺跡保存の全国シンポジウムの運営に中心メンバーとして関わった。 戦争遺跡の現地視察では、中高年の参加者に交じって20代の若者の姿も見られた。参加した大学生らは「砲台跡がたくさんあるのを知ってすごく衝撃的でした。何かこれから起こってもおかしくないことなのかも知れないなという恐怖とかもあって…、いろいろ知ることから始めていきたい」と話していた。 2024年6月に調査結果をまとめた本を出版した前薗さんだが「当時の経験者というのはだんだん亡くなっている。その中で戦争を伝えるのは、もう“物”でしかない。戦争体験者の証言集とかそういう冊子よりも現物の方が訴える力は強いんじゃないかな」と戦争遺跡の保存を訴えかける。 戦争の記憶が年々薄れる一方で、次第に現実味を帯びつつある新たな戦争への懸念。もはや時代は戦後ではなく新たな戦前に入っているとの指摘も聞かれる。物言わぬ戦争遺跡は平和の尊さを問いかける。 (テレビ西日本)
テレビ西日本