J1復帰を狙う松本山雅の田中が継承する亡き松田の魂
来シーズンのJ1に昇格する最後の1枠を、4チームがトーナメントで争うJ1昇格プレーオフが27日に開幕。J2の2位で自動昇格を決めた清水エスパルスと勝ち点84で並びながら、得失点差で及ばず3位となった松本山雅FCは、ホームのアルウィンに6位のファジアーノ岡山を迎える。 今シーズンのリーグ戦対戦成績は、松本の1分け1敗。敵地で1‐2と苦杯をなめ、ホームでも後半終了間際に1‐1に追いつかれた。2試合ともに、今夏のリオ五輪に出場したMF矢島慎也に手痛いゴールを許している。 「対戦相手を分析して賢い守備をしてくるので、ウチはその上をいかないと。パスの出し手だけでなくフィニッシュの部分でも、矢島はJ2では飛び抜けている。(レンタル元の)浦和に帰っても活躍できるよ」 25日午後に松本市内で行った練習を一部非公開として、戦術的な部分を確認した松本の反町康治監督はJ2参戦8シーズン目で最高の成績を残し、初めてプレーオフに挑む岡山を警戒した。もっとも、超満員必至の大一番で先発として送り出す選手はすでに決めている。 「ウチは精神的にも肉体的にも、強い選手しか選んでいない。今回もそうなるよ」 クラブ史上初の日本代表候補に選出された守護神シュミット・ダニエル、キャプテンのDF飯田真輝、4試合連続ゴールでリーグ戦を締めくくったチーム得点王のFW高崎寛之らとともに、指揮官が全幅の信頼を寄せて先発リストに名前を書き込む選手がいる。 34歳のチーム最年長にして、精神的支柱の田中隼磨。松本が初めてJ1に挑んだ昨シーズンは飯田とともに全34試合、3060分間に先発フル出場。リーグ1位の総走行距離389.975キロ、3位のスプリント回数880を記録した驚異のタフガイは今シーズン、選手生命の危機に直面していた。 開幕から16試合連続で先発フル出場してきた田中は、6月8日の北海道コンサドーレ札幌戦から突然姿を消した。欠場した14試合の間に、実は「右眼裂孔原性網膜剥離」と戦っていた。首位の札幌に勝利し、2位に浮上したその日に、横浜市内の病院で右目にメスを入れた。 6月4日のギラヴァンツ北九州戦から一夜明けると、右目の視界だけが一変していた。真っ暗でほとんど見えない状態に不安を覚えながら向かった松本市内の病院で、まさかの病名とともに、設備の整った病院へ移った上での緊急手術が必要と宣告された。 手術翌日には松本から詳細が発表されたが、受傷理由や全治は「未定」と記されていた。サッカーどころで はなかった当時の心境を、田中はこう振り返る。 「最初は何もわからなかったし、最初の2ヶ月は先のことが何も見えない状態だった」