歴史に残る巨額「投資サギ事件」首謀者の不可解な行動 ド派手イベント強行せざるを得なかったウラ事情
イベント開催前にはクラウドファンディングで資金調達も
華やかなイベント開催の裏側で、この頃には「STAR CRAFT」の債務は雪だるま式に膨らんでおり、数十億円の負債を抱えて経営破綻一歩手前の状態にありました。 室崎容疑者は当座の運転資金すら確保が難しくなっていたようで、イベント開催の半年前となる2022年2月5日には、大手クラウドファンディング・プラットフォームに、1956年式メルセデス・ベンツ「190SL」のレストア資金調達の名目でクラウドファンドを立ち上げています。その目標金額は300万円。借金の大きさに比べれば「焼け石に水」といった印象で、今さらこの程度の資金を集めても、経営の立て直しなど不可能だったのではないでしょうか。 ひょっとすると室崎容疑者は「このベンツを仕上げて売れば、しばらくは持ち堪えられる」と考えていたのかもしれません。もっとも現実は厳しかったようで、同年4月1日のプロジェクト締め切りまでに集まった支援者はたったの17人。目標金額の17%に当たる53万円しか集まりませんでした。 クラウドファンドで微々たる資金を募る一方で、巨費をかけた自社イベントを富士スピードウェイで行うなど、室崎容疑者の行動にチグハグさを感じるかもしれません。 しかし、富裕層相手の高級車ビジネスは、販売店やレストア工房が良い仕事をするには当然として、派手なイベント、豪華なショールーム、若く美人な受付嬢、きめ細かなサービスは必須のものであり、たとえ台所事情が苦しくとも避けては通ることができないのです。もしこれらの顧客サービスを疎かにすれば、あっという間に数少ない顧客は離れてしまい、その時点で経営が行き詰まってしまいます。
選ばれた少数の富裕層を顧客にする高級車ビジネスの難しさ
何千万、何億という大金を移動の道具であるクルマにポンと支払う富裕層は、私たち庶民とは感覚がまったく異なります。 中でも実用性がなく、日常使いができない高級クラシックカーやスーパーカーを買うことができるのは、お金持ちの中でもほんの一握り。セダン型のロールスロイスや、ベンツの高級SUVを買う財力がある人でも、「遊びクルマ」、すなわち実用性のまったくない趣味性の強いクルマに大金を費やすことは、メンタリティの面でなかなかできないでしょう。 彼らが高級車を買うときは、単に魅力的な商品であるというだけでなく、自分が選ばれた存在であるという優越感を満たしてくれることを暗に要求してきます。彼らは一流の自分にふさわしい店でしか、決して高額商品を買うことはありませんし、実用性皆無なクルマに莫大な金額を支払おうとする人は要求する水準も厳しいものとなります。 そうしたことから富裕層相手のビジネスは設備投資やサービスに相応のコストがかかり、入ってくる金額も多ければ出ていく金額を多くなるのです。 しかし、ビジネスはリスクがあります。ましてや高級車販売は取り扱う商品が高額なだけに、何か間違いがあれば莫大な損失を被ることもあります。そして、想定外のことが2回、3回と立て続けに起きれば、老舗や名店と呼ばれるプロショップでも即座に経営が立ち行かなくなるのです。これこそが、高級クラシックカーやスーパーカー販売の厳しくも難しいところだと言えるでしょう。
山崎 龍(乗り物系ライター)