TKOでV9に成功した内山を支えるプライド
スピード、反応、パンチ力、そして、ずっと不安がつきまとっていた拳の再生。そこには1年のブランクを微塵も感じさせない、真のチャンピオンの姿があった。 内山は、試合が決まると、フィジカルトレーナー、土居進氏の新宿のジムへ通い、厳しいトレーニングで追い込みの時期を作るが、試合のない間は顔を見せない。この1年、何度か決まりかけた試合が流れたせいもあって、9か月間、土居氏のジムに現れなかった。10月初旬に久しぶりに現れた内山の肉体を見て土居氏は驚いたという。 「心配していましたが、ブランクをまったく感じなかった。試合のない間も、どれだけの節制とトレーニングをしてきたか。それがわかりました。彼がボクシングを定年まで軽くできると思う理由は、そこでです」 1年ものブランクを作った。 「人の試合を見る度に、ああしたいな、うらやましいな、寂しいなと思ってきたんだけど、昨日は、人の試合を見ても、明日は俺だ、緊張もあったけれど試合ができると嬉しくなった」 その間、チャンピオン内山を支えてきたものは何か。 それはチャンピオンとしてのプライドであり、ボクシングの原点にあるハングリー精神である。 今回の防衛戦に向けてライト、ウエルターという階級が上の選手とスパーリングを行う機会が多かった。ボクシングは体重差の有利不利が如実に出るスポーツであるが、内山は、たとえ体重のハンディがあっても、そのスパーで相手を圧倒した。たとえ練習でも、やられる自分が許せなかったという。 「大学時代は、すごく大雑把なくくりでスパーをやっていたので、重い選手とよくスパーリングをやって、やられていた。そのときは、なんとも思わなかったけれど、今はたとえスパーでも、やられたくないという気持ちが強くなってきた。人に絶対にやられている姿を見せたくない。プライドといえばプライドなんだろうね」 王者の尊厳を胸に、いつも真剣勝負。その積み重ねこそが内山の強さである。 たまたまふらっと練習を見にいったとき、「そういえば、夜になるとスーパーが割引になるでしょう。それを待って買い物したことあったなあ」という昔話を聞かせてくれた。決してエリートではない。オリンピック出場がならなかった内山は、一度はボクシングの道を離れ、サラリーマン生活をしていた。そこから舞い戻った男だからこそ、プロの世界で生きるためには、何が必要なのかを身を持って知っている。その自律、克己の精神は、まさにミスターボクシングである。拓殖大ボクシング部の後輩である八重樫東は、前夜、WBCライトフライ級王座決定戦で敗れた。彼は、こう言っていた。 「僕は負けましたが、内山先輩は1年のブランクも関係なく勝ちますよ。心も体も作り方が違う。自分に強い人ですから」