TKOでV9に成功した内山を支えるプライド
ボクシングのWBA世界スーパーフェザー級王者、内山高志(35歳、ワタナベ)の防衛戦が31日、大田区総合体育館で、同級8位のイスラエル・ペレス(33歳、アルゼンチン)を迎えて行われ、9回終了後、挑戦者が棄権、TKOで9度目の防衛に成功した。同興行では、ワタナベジムに所属するWBA世界Sフライ級王者の河野公平(34歳)が判定で初防衛に成功、田口良一(28歳)が判定でWBA世界ライトフライ級王座を奪った。 1年ぶりの再起戦でブランクを感じさせなかった内山を支えてきたものは、プライドと努力だった。
10ラウンド開始のゴングが鳴ってもペレスはコーナーに座ったままだった。トレーナーがペレスのカットされ腫れ上がった右目を押さえ、陣営はレフェリーに棄権を申し入れた。 「視界が悪くなったので相談して棄権を決めた。体力的にもきつかった」とはペレスの棄権理由。 内山は、1年ぶりの試合をTKOで決めたが、どこか不満足そうにリングに躍り出た。 実は、ペレス陣営が棄権を検討している時間、内山陣営では、GOサインが出されていた。9ラウンドに内山の右ストレートが1発、2発と続くと、ペレスはついに硬いガードをかち割られ後ずさりしていた。内山も、そこにKOの予感を感じとっていただけに、あっけない白旗が悔しかったのだろう。 「スカっと倒したかったんだが、ディフェンスがうまくて苦労した。申し訳ありません」 律儀な内山らしい言葉。 内山は、王道のジャブで試合を支配した。本当によく手が出た。 「ジャブが当たるので、そのうち崩れると思っていた」 ベテランらしい読みだ。 だが、一方で「1年、試合から遠ざかっているから反応、感覚での不安はあった」ともいう。 「ガードをしっかりとしてビッグパンチをもらわないこと。そこだけを気をつけていた」 幸いにペレスがスイング系のパンチャーで、大きいパンチを振り回してくるため、内山はそのパンチに反応できた。「十分に見切れた」。それにしてもシドニー五輪出場経験もあるペレスは、タフなチャレンジャーだった。2003年以降11年負けなしの戦績はダテではなかった。ローブローお構いなしにの左右のスイングボディブローを荒っぽくふりまわしてくる。内山は、時折、そこに必殺のボディカウンターを狙う。 「左に右を合わせてくるので注意していた。もっとボディにもカウンターを打たなくちゃいけなかったけれど腹が効いているのはわかった」 ペレスが鉄のようにガードを固めて、そこに隙がないと見ると、ガードの上から「側頭部を狙って」フックを打つ。ガードをはねあげるようなアッパーを使いながら、徐々にアルゼンチン人の強固な砦に、ヒビを入れていく。8ラウンドにはペレスが右目をカット。ロープを背にして防戦一方となる場面が目立ち始めた。KOシーンは時間の問題だったが、それを避け、危険を選んだにも、元オリンピアンのプライドだったのか。 記者会見では、「内山は強いと感じなかった」と語ったペレスだが、医務室に引き上げる途中では、「あんな強いパンチを受けたことがない」と泣きが入っていたという。