「セクシー田中さん」原作者を追い詰めたSNSの“安直な正義感” 当事者以外が善悪をジャッジする危険性
SNS運営側の問題
ネット空間における誹謗中傷が社会問題化したのは、2020年に女子プロレスラーの木村花さんが22歳の若さで亡くなった事件の影響が大きい。恋愛リアリティー番組「テラスハウス」(フジテレビ系)に出演していた彼女は、SNSなどで誹謗中傷されたことを苦にして、自ら命を絶ってしまった。 その遺族代理人を務め、日本におけるSNSの開示請求第1号案件を担当した清水陽平弁護士に聞くと、 「今回のケースでは、脚本家の方などを名指しした上で侮辱的な内容を書き込めば罪に問われる可能性もあります。法改正で一昨年7月から侮辱罪が厳罰化され、拘留30日未満または科料1万円未満だった法定刑に、1年以下の懲役・禁錮、30万円以下の罰金が加えられました。とはいえ、実際にSNSで他者への攻撃的なコメントが減ったかというと、全くそんな印象は受けません」 いったいなぜなのか。その背景には、SNSの運営側の問題もあると清水弁護士は言う。 「たとえばXならウェブフォームもありますが、削除依頼はなかなか認められません。警察に捜査してもらおうにも、データ管理をしているのは海外法人なので日本の警察の捜査は難しい。中傷する者を特定したいと考えても、イーロン・マスク氏がツイッター社を買収して以降、スタッフを大量に解雇したこともあるのか、対応が遅くスムーズに進まない状況が続いているのです」
「“侮辱はしていない”と考えている節が」
加えて、こんな事情もあると清水弁護士が続ける。 「匿名で批判をするのは簡単で優越感が得られやすいのですが、多くのネットユーザーは“自分の考えを述べているだけで侮辱はしていない”と考えている節があります。私が木村花さんへのSNSでの誹謗中傷に対して相手を特定した際も、投稿への後悔はあっても反省していると思えるケースはまれでした。自分の発言は問題ないと居直っているような方もいますし、書き込みした事実を特定できているのに否定したり、損害賠償を支払わず逃げている人もいます。SNSの誹謗中傷に関する法整備は、まだ発展途上なのです」