「セクシー田中さん」原作者を追い詰めたSNSの“安直な正義感” 当事者以外が善悪をジャッジする危険性
「骨の髄までしゃぶりつくす」
突然の訃報は多くの人に衝撃を与えたが、ネット世論は喪に服すどころか過熱の一途をたどる。SNSは“芦原さんはテレビ局に殺された”と言わんばかりの声であふれたのである。 当の相沢氏もSNSで〈芦原先生がブログに書かれていた経緯は、私にとっては初めて聞くことばかりで、それを読んで言葉を失いました〉と吐露して、〈SNSで発信してしまったことについては、もっと慎重になるべきだったと深く後悔、反省しています〉と釈明し、アカウントを閉鎖するに至ってしまう。 「今やSNS空間は、腹を空かせたどう猛なワニやピラニアが無数に生息する沼と化しているのです」 とは、さるニュースサイトの編集者である。 「少しでもエサになりそうなトラブルが投下されると骨の髄までしゃぶり尽くす。当事者でもない第三者であるネット民の標的にされたアカウントは、投稿の削除や閉鎖に追い込まれる。今回のケースでは原作者が受けた理不尽な思いを晴らしてやろうと、日テレや脚本家へ誹謗中傷が繰り返されたわけです」
版元の小学館もやり玉に
やり玉に挙げられたのは、脚本家やテレビ局だけではない。原作者と共にドラマ化の交渉にあたった版元の小学館にも、ネット民たちから批判の声が殺到したのだ。 同社の関係者が明かす。 「社内でも“作家さんや読者からの問い合わせにどう対応すべきか”“事態の詳細を知りたい”という声が上がり、今月6日に社内説明会が開かれました。役員からは、亡くなる直前まで芦原さんが行っていたSNSの投稿については“自身で説明したいという強い意志があった”とした上で、“ネット上の多くの反応が芦原先生を苦しめてしまった。SNSでの発信が適切ではなかったという指摘は否めません。会社として痛恨の極み”との見解が示されました」
「先生のご遺志に反する」
この説明会では、企業のリスク管理を研究する桜美林大学の西山守准教授が「仕事上の問題をSNSに投稿することは誰も得しない」「犯人捜しは事態を悪化させる」と指摘したウェブ上の記事が紹介され、義憤に駆られての投稿、それに対する批判の応酬が悲劇を生んだとの説明もなされたという。 改めて西山氏に聞くと、 「テレビ局や出版社の間で、SNSやネットメディアの怖さが軽視されて、騒動のきっかけとなった脚本家の投稿が放置されてしまったことは問題だったと思います。多くの人の目に触れる前に削除すれば、当事者間で解決することもできたかもしれません。投稿が多くの人の目に触れたことで、今は第三者の怒りの声ばかりが暴走してしまい、かえって真実がうやむやになってしまっているように見えます」 第三者であるネット民は、善意の皮を被って問題に首を突っ込み、自分の不満のはけ口にしているようにも見える。 「SNSで声を上げた人たちは、芦原先生の代理として攻撃したつもりだったのかもしれません。けれど、芦原先生はSNSで攻撃するつもりはなかったと言っておられたし、それ以前にも“素敵なドラマ作品にして頂いた”として、キャストや制作陣、そして視聴者に感謝の言葉を書かれていました。そのことを踏まえれば、第三者が脚本家やテレビ局、版元に至るまでを批判して攻撃するのは、先生のご遺志に反するのではないでしょうか」(同)