ボランチ遠藤不在で…選手から漏れた「簡単じゃない」 森保ジャパン中盤に起きた異変【コラム】
当面は遠藤と守田の2ボランチが森保ジャパンの軸に
守田と田中は川崎フロンターレで一緒にプレーしており、2人が海外組になってからも、試合で組んだのは一度や二度ではない。ただ、6月シリーズから本格導入した3-4-2-1というシステムで遠藤と守田のコンビが、かなり噛み合っていたこと、そしてサウジアラビア戦でも見せたような守田の良さというのが、遠藤とのコンビから引き出されたものであったことも確かだろう。中盤における役割の話で言えば、田中も所属クラブのリーズ・ユナイテッドで中盤のアンカーを担うなど、6番的な役割をこなせるベースはある。 ただ、チームの生命線となるボランチは相手との兼ね合いやリスクマネジメントも含めて、シンプルな関係式だけでは成り立ちにくい。それは難しい相手になればなるほどそうだ。準備期間が限られる代表活動において、これまでの日本代表でもボランチというポジションはスタメンの選手が固定されやすい傾向が強かった。まして攻撃的な3-4-2-1のシステムにおいて、森保一監督はウイングバックとシャドー、そして1トップでの選手交代を後半のギアチェンジに使うので、現在はボランチの途中交代が少ない。 田中も最初の中国戦は4-0と大量リードした後半26分から遠藤に代わり守田とコンビを組んだが、バーレーン戦、サウジアラビア戦と出番がなかった。田中のポテンシャルに関してはここで今さら語るまでもないだろう。まして、ドイツ2部からチャンピオンシップ(イングランド2部)に環境を変えて、ボールを奪う守備強度は数か月前より明らかに増しているように感じる。しかし、3-4-2-1の関係構築や対戦相手を見ながらのアジャストなどを想定すると、普段あまり組めていない2人がバッとビジョンを合わせるのはかなり難しいはず。遠藤と田中のように、基本的な特長に違いがあれば、なおさらだろう。 ただ、田中としては手探りな部分が多かった前半に比べると、後半のほうが立ち位置の関係もよく、守田だけでなく周囲との関わりも含めて、だいぶイメージアップできていたようだ。その最中でのオウンゴールによる失点、そこから伊東純也や中村敬斗の投入によるギアチェンジで、ボランチはよりシンプルに、個人で仕掛けられるサイドの2人に付けたり、オープンな展開で役割が変わったこともあり、前半からの改善点が明確に伝わる時間が限られた。それでも中村の仕掛けによる同点ゴールの起点になった田中はサイドとの関係についても「やっていければ、もっと良くなるだろうし。これから楽しみな部分である」と前向きに語っている。 素直に評価すれば、守田と田中の関係もやればやるほど良くなるだろう。しかし、最終予選を確実に突破して世界につなげて行くために、遠藤の体調さえ問題なければ、当面は遠藤と守田の2ボランチが森保ジャパンの軸になっていくことはほぼ間違いない。もし11月シリーズでアウェーのインドネシア戦と中国戦を順当に勝ち切ることができれば、来年の4試合は結果にこだわりつつも、ある程度、先を見ながらの選手起用もしていけるかもしれない。今回は田中がクローズアップされたが、パリ五輪世代のキャプテンだった藤田譲瑠チマも出番なく10月シリーズを終えたことは軽視できない。 今回は遠藤を試合前日からの体調不良で欠くという緊急事態が、田中のスタメン起用につながったことは想像に難くないが、チームの生命線である2ボランチで、3人目、4人目の選手を抜擢していくリスクは当然あるなかで、それでもやっていかないと、過密日程で7試合を戦うW杯の本大会に向けても、大きな課題として残されてしまうだろう。オーストラリア戦はそうしたことを改めて感じさせられる、良い機会となった。 [著者プロフィール] 河治良幸(かわじ・よしゆき)/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。
河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji