レーダー照射で続く平行線 韓国の対日姿勢の問題点
海上交通の国際ルールの確認必要
一方、今回の事件については、日本側においても明らかにすべきことがあります。 能登沖で今回の事件は起こったのですが、なぜ「能登沖」だったのでしょうか。北朝鮮の漁船が能登沖まで漂流してくることはあり得ますが、韓国海軍の艦艇が「能登沖」まで来て北朝鮮の漁船を捜索するのは自然なことではありません。それとも、韓国艇は日常的に北朝鮮漁船の行動を監視・追尾して日本の排他的経済水域(EEZ)にまで入り込んでいるのでしょうか。国際法上、韓国の艦船が日本のEEZに入ること自体は問題ありませんが、日本に近い海域ですから、日本自身がどのように対応しているかがまず問われます。 今回レーダー照射を受けた海自のP1哨戒機は、なぜ韓国の艦艇と「北朝鮮の漁船」の近くにいたのでしょうか。韓国側は哨戒機が韓国艇の上を通ったと主張していますが、実状はどうだったのでしょうか。わが国のEEZ内の出来事であれば、海上保安庁の巡視船や海上自衛隊の艦船はその対応のためにどのように動いていたのでしょうか。 海上で問題が発生した場合、状況の正確な把握は容易でありません。関係国間で言い分が異なることもよくあります。そのため、艦船の海上交通に関して行動の準則を作る試みが行われてきました。今回の事件についても国際的なルールを確認しておくことが必要です。
米国は今回の問題をどう見るか
さらに、今回の事件を米国がどのように見ているかも注目されます。前述したように日韓両国とも東アジアの安全保障のために米国と協力しており、日韓間で協力を妨げる恐れのある問題が発生すれば、米国としても憂慮するでしょう。 米国は冷戦時代からソ連と、海上での危険な行為を防止するために米ソ海上事故防止協定(INCSEA)を結んでいます。最近は中国との揉め事が多くなっており、9月末には南シナ海で、米海軍のイージス駆逐艦に中国駆逐艦が異常接近する事件が起こりました。米国はこれまで海上における多数の危険行為を処理しています。 今回のような事件が起こった場合、日韓の防衛当局は米国との関係を考えます。日韓両国ともすでに本件を内々に米国に通報し、協議しているかもしれません。そのなかで、日韓両国がそれぞれ主張するのは当然ですが、事件をいたずらに拡大しないための道筋が話し合われている可能性があります。
------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹