現代アートが1980年代に「変わった」のはなぜか、「ビフォー1980」と「アフター1980」の違いとは
しばしば「意味不明」「わからない」とされる現代アート。しかし、そこには必ず社会状況の反映がある。むしろ、現代アートを見ることで、より深く時代や世界について考えるきっかけにもなる。そこで本稿では、1980年代に入って大きくアートが変わった経緯を『「わからない」人のための現代アート入門』より、抜粋して紹介する。 ■「ヘンな」アートが出てきたワケ 「ビフォー1980」のアートは、時代や社会に対してポジティブであれネガティブであれ、いずれであっても「読みやすい」ものではありました。そういうものが現れる文脈が理解でき、どっちへ進んでいくのかもおおよその見当がつきました。
ところが、シンプルなイデオロギーで律することのできる右肩上がりの時代はいつまでも続きませんでした。それと併行して、現代アートにも視界不良が訪れます。 世の中はやがて混沌の時代へと突入していくこととなります。そういう時世の変化を捉えて、1979年、哲学者のジャン=フランソワ・リオタールは「大きな物語の終焉」を宣言したのでした。 1980年を過ぎる頃から時代の様相は怪しくなっていきました。それまでは高度経済成長の波に乗り、多少の問題があったとしても、総じては前途洋々たる気分だったのが、次第にその「前途」が見えなくなってきたのです。
今日よりよくなるはずの明日は不透明となり、経済も気がつけば低成長時代に突入。ジョン・K・ガルブレイスの『不確実性の時代』がベストセラーになったのはそういう時期でした。 近代化の時代は終わりを告げて近代化以後となり、キーワードは「モダニズム」から「ポストモダン」へと移り変わりました。「アフター1980」は、確かなもののない戸惑いと手探りの時代となったのでした。 現代アートも時代の変化に呼応するように変容していきます。ビフォー1980のときのように明快なロジックに裏付けられるものでは必ずしもなくなっていき、どうしてそれが出現するのか、それがどういうものなのか、はっきりと説明することができなくなっていきます。