選択的夫婦別姓はなぜ導入されない?石破首相も一転慎重に 国連が「女性差別」と審査
導入容認に傾く世論、旧姓の通称使用では解決できない問題も
実際、世間の空気は選択的夫婦別姓制度導入に傾き、慎重な政府・自民党に対する世間の視線はどんどん厳しくなっている。 経団連は6月10日、選択的夫婦別姓制度の早期実現を求める政府への提言を発表した。政府や企業では、結婚後も旧姓を通称として使うことが定着しているが、それだけでは解決できない問題が生まれているからだ。 外務省元幹部の一人は「外国政府・企業との間で審査や取引を行う際、パスポートの名前とその他の書類の名前が食い違うケースが多発している。所要時間が長くなるばかりか、相手から信用を失うことにもつながりかねない」と指摘する。自民党の思惑とは別に、世間では「家」より「個人」を重視する考え方がより普遍的になっている。 石破氏も総裁選では「姓を選べず、つらい思いをし、不利益を受けることは解消しないといけない」と語っていた。しかし、首相就任後に行われた10月7日の衆院本会議の答弁では「国民の間に様々な意見があり、政府としては、国民各層の意見や国会における議論の動向などを踏まえ、更なる検討をする必要がある」と述べるにとどめ、慎重姿勢に転じた。 ベテラン議員は石破首相が選択的夫婦別姓に慎重な姿勢に転じた背景として「政権を握った以上、これまで権力を握っていた勢力を敵に回したくないという思惑が働いている」と指摘する。
近代化に成功した「明治時代の規範」を重視する傾向
一方、上述の外務省元幹部は「選択的夫婦別姓に慎重な意見を唱える政治家は、LGBTQ+(性的少数者)への対応でも慎重な意見を述べる傾向がある」と語る。昨年6月に成立したLGBT理解増進法でも、高市氏は2023年2月の衆院予算委員会の審議で「文言について十分な調整が必要だ」と述べ、慎重な姿勢を示したことがある。 元幹部は「どちらの主張も、日本の伝統を守りたいという根拠に支えられている」と語る。専門家の一人は「明治政府は紀元節を定めるなど、古来の日本の伝統を強調する傾向にあった。日本の伝統を主張する人々は明治時代の規範を重視する傾向がある」と語る。 自民党のベテラン議員は「日本の近代化は成功の歴史だ。慎重派としては、近代化の歴史を重視することが主権国家として強固なつながりを維持することにつながると考えている。これは理屈ではなく、歴史認識とは関係のない不思議な感覚とも言える」と話す。 しかし、上野景文・元駐バチカン大使は「日本では8割程度の人が中絶の権利を認め、西欧に近い傾向が出ている。性的少数者の権利を認める割合も西欧と変わらない。問題は、それが政策に結びつかず、政策面では置き去りになっているという点だ」と語る。