「鬼滅の刃」に出てくる風鈴、日本に2軒しかない「江戸風鈴」だった ドクロ柄など、新境地を開いていく4代目女性職人の思い
◆コラボレーションは知名度拡大のチャンス
----その後、アニメーションとのコラボレーションで、風鈴が注目されることになりました。その経緯は? アマビエ風鈴を作っていた頃、アニメ「鬼滅の刃」の制作会社から、劇場版アニメの中で江戸風鈴の音を使いたいという申し出がありました。 風鈴は、映画の終盤でとても印象的な使われ方をしていて、登場したものと同じ柄の風鈴をグッズとして販売したところ、大人気になりました。 ----その他にも漫画やキャラクターなど多数のコラボ商品がありますが、コラボレーションについてはどう思われますか? ありがたいことに、こちらからコラボをしましょうと売り込んだことはないんです。 いただいたお話は、絵柄や数量などの点で無理がない限り、お断りすることはほとんどないです。 コラボは利益率が高く、何よりそれまで風鈴に縁のなかった方に知ってもらう機会で、とても良いチャンスだと思っています。
◆「商売が下手」と言われる
----4代目として会社の経営面を見た時、現状の課題はどんなことがありますか? 生産量をもう少し上げたいです。 今は私と母、妹、私の夫、2人の職人さんと計6人で作っていますが、父が亡くなって以来、下がった生産量はリカバーできていません。 求められる絵柄も変わり、1個あたりの手間が昔より増えていることもあります。 原材料や燃料の高騰を考えると、売価はもう少し値上げすべきなのでしょうが、やはりためらいがあります。 事務や経理は母と妹に任せていますが、母からは「商売が下手」と言われます。 でも、うちの人たちは基本的にみんなどんぶり勘定で、まあいいか、何とかやっていくしかないね、というタイプ。 もう少しお金をきちんと見る人たちだったら、そもそも風鈴屋はやめていたかもしれません。
◆伝統を守っているのは使ってくれるお客様
----今後、江戸風鈴はどのように継承されていくと思いますか? 私も妹も子供がいませんし、もし私の代で会社が終わったとしても、後悔したくないという気持ちで風鈴を作っています。 風鈴は生活必需品ではないので、なくなっても困らない。 求められなくなれば消えてゆくのは自然な成り行きです。 ただ、何か新しい使い方が生まれるとしたら残る可能性はあり、その可能性を広げてくれるのはお客様です。 父も「伝統を守っているのは自分たちではなく、使ってくれているお客さん」と言っていました。 まずは単純に「かわいい」と目を止めてもらうことが大切です。 伝統的な部分は大切にしつつも、時代に合わせて新しいことにもチャレンジしていく勇気が必要だと思います。 今、江戸風鈴の店は2軒だけで「江戸風鈴業界」というのはありませんから、「こんなものは伝統ではない」と言う人は周りにはいません。 だからこそ好きなようにやれています。 「老舗は最先端を行く」が祖父の口癖でした。 その精神は私も大事にしていきたいと思います。
■プロフィール
篠原風鈴本舗 篠原 由香利 氏 1981年東京都生まれ。大学卒業後の2004年、家業の篠原風鈴本舗に入社。3代目の父・篠原裕氏の没後、篠原風鈴本舗の顔として「江戸風鈴」を世に広めている。風鈴作りでは絵付けを担当し、伝統柄から現代の暮らしになじむモダンなものまでさまざまな風鈴を制作。音楽、アニメほか異分野とのコラボレーション作品も多い。平成23年東京の伝統的工芸品チャレンジ大賞奨励賞をはじめ数々の賞を受賞。江戸川区伝統工芸会、江戸川伝統工芸振興会会員。なお「江戸風鈴」は2代目篠原儀治氏が江戸時代と同じ製法で製造している自社の風鈴を商標登録したブランド名である。