「鬼滅の刃」に出てくる風鈴、日本に2軒しかない「江戸風鈴」だった ドクロ柄など、新境地を開いていく4代目女性職人の思い
吹きガラスに手描きで一つ一つ絵付けをする、江戸時代と同じ製法で「江戸風鈴」を作り続けている篠原風鈴本舗(東京都江戸川区)。2014年に3代目だった父が亡くなり、家業を引き継いだ篠原由香利氏(43)は、伝統を守りつつも、人気アニメ「鬼滅の刃」などとのコラボ作品をはじめ、ユニークな風鈴を世に送り出している。その発想の源泉や、コロナ禍の試練を乗り越えた体験、風鈴という伝統を未来につなぐことへの思いを聞いた。 【動画】専門家に聞く「事業承継はチャンスだ。」
◆大量生産ではないからこそチャレンジできる
----由香利さんの代になって、伝統的な柄だけでなく斬新な絵柄の風鈴を作っていますね。 先代の父も、招き猫の風鈴を作ったりして、新しいものには挑戦していました。 私が2011年、東京の伝統的工芸品チャレンジ大賞奨励賞を受賞した作品は、東京の街並みを描いたものでした。励みになりましたね。 伝統的な金魚や花も素敵ですが、今の人は部屋も洋風だし、もう少しそこにマッチするような柄もあっていいと思います。 ----絵柄のヒントはどういうところから? 私はロックが大好きなので、ドクロの柄を描いてみたらとても好評でした。 浮世絵なども、仕事のためというより好きで見ているので、アイデアはいろいろ頭の中にあります。 常に周りにアンテナを張っている感じですね。 大事なのは、頭の中で「こういうのどうだろう」と考えているだけではなく、まず形にしてお客様に見てもらうことです。 うちはすべて手作業なので大量生産はできず、商売の観点では弱点かもしれません。 でも、ラインの決まっている工場では「1個だけ」を作ることはできません。 「とりあえず1つ作ってみる」ができるのは、うちの強みだと思います。
◆コロナ禍の苦境を救った「アマビエ風鈴」
----コロナ禍の時、会社にはどういった影響がありましたか? 2014年にガラス吹きの主力だった父が亡くなり、作れる数が大幅に減ったため、風鈴作り体験教室に力を入れました。 ところが、コロナ禍で体験申し込みのキャンセルが相次ぎ、例年は夏に5~6回はあった百貨店などの催事もすべて中止になりました。 夏に窯の火を止めたのは、私の記憶にある限りこの時が初めてでした。 決まっている注文だけはこなしていましたが、経営はもちろん赤字ですし、この状態がいつまで続くのかもわからず、不安な日々でした。 ----そんな苦境を乗り越えられたのは、ある商品のおかげだったとか。 当時、疫病よけの妖怪アマビエを描いて投稿するのがSNSで流行っていて、うちでもアマビエの風鈴を作って投稿しました。 すると、ある新聞社の目に止まって取材が来たんです。 記事が出ると、アマビエの風鈴が欲しいという人が多く、ネットショップでもかなりの売れ行きに。 数十個が30分足らずで売り切れたこともあるほどで、夏の間はずっとアマビエを描き続けました。 風鈴は元々魔除けの意味があったそうですから、原点に返った商品かもしれませんね。