【コラム】現代社会で切磋琢磨する、さまざまな立場の人を刺激する 日韓合作の新作ミュージカル『ミセン』世界初演への道
社会現象を巻き起こした、大企業を舞台にした人間ドラマを日韓合作で舞台化
この新春に大阪・新歌舞伎座から開幕する新作ミュージカル『ミセン』。韓国で人気を博したウェブ漫画を原作としているが、それをもとに2014年に韓国で製作、放送されたドラマ『未生(ミセン)』のほうが、韓国ドラマファンには馴染みがあるだろう。筆者もリピート視聴したほどにハマった、大企業を舞台に繰り広げられる胸熱の人間ドラマである。 【全ての写真】世界初演となるミュージカル版で主人公のチャン・グレを務める前田公輝 主人公の青年チャン・グレは囲碁のプロ棋士となる夢を絶たれ、それまでの人生には関わりのなかった未知の世界、商社でインターンとして働くことに。そこで出会う人々との切磋琢磨、社会で懸命に生き抜こうともがく登場人物それぞれの葛藤と成長が、非常にきめ細やかに描かれた群像劇の傑作だ。その『ミセン』がミュージカル化され、日本で上演されると知ったのは昨年の春。「あれ、『ミセン』って韓国でミュージカルにもなっていたのか」と思った人は多かったのではと推察するが、本作は昨今増えている韓国オリジナル舞台の翻訳版ではなく、日本オリジナルの新作、世界初演の舞台である。さらに興味を引かれたのが、演出オ・ルピナ(『キングアーサー』)、脚本・歌詞パク・ヘリム(『ナビレラ』)、音楽チェ・ジョンユン(『マリー・キュリー』)の、日本でも話題となった舞台を手掛けた韓国ミュージカル界のトップクリエイターズが主導し、日本の俳優、スタッフとともに作り上げる新作であることだ。類を見ないスタイルの日韓合作舞台、その創作過程を今回、縁あって追いかけることになった。
第一線で活躍する韓国舞台俳優も参加! 本公演さながらのリーディングワークショップ
昨夏に韓国ソウルの演劇街、大学路(テハンノ)を訪れて目にしたのは、創作の中間チェックのために行われたリーディング公演だ。演出家オ・ルピナへの信頼のもと、韓国演劇の第一線で活躍中の舞台俳優たちが協力参加していたことにまず驚かされた。チャン・グレやその上司オ・サンシク課長、一人二役のソン・ジヨン次長&グレの母親、そしてインターン仲間たちなど、各キャラクターにぴったりの人気と実力を備えた俳優が配役されていて、もうこのキャストで本公演が成立するのでは!? と思うほどの熱量高いリーディングを披露。 作家パク・ヘリムも作曲家チェ・ジョンユンも、最初はやはりミュージカルの題材としては触れたことのない原作に戸惑ったそうだ。いくつものエピソードを重ねて人々の心模様を繊細に映し出した原作の世界観を、いかに2時間余りの舞台作品に仕立てるか。リーディングを終えた後の活発な意見交換が面白く、オーディションで選抜されてアンサンブルを担った公演芸術学部の学生も、作家を前に臆することなく脚本の弱点をビシバシ指摘する。パク・ヘリムもチェ・ジョンユンも「このリーディングで多くの修正点に気づけた。新たな方向性が見えた」とあらためて奮起していた。「日本で必ず、いい舞台に作り上げてきます」と誓うオ・ルピナにリーディングの仲間たちから温かい拍手が送られたのも、記憶に残る素敵な光景だ。