【コラム】現代社会で切磋琢磨する、さまざまな立場の人を刺激する 日韓合作の新作ミュージカル『ミセン』世界初演への道
中間管理職にも絶対に刺さる! 高揚感溢れるステージングで“日常”を綴る刺激的な作品に
そして昨年末、東京の稽古場で日本のキャストによる『ミセン』の通し稽古を見学し、夏からとてつもない進化を見せたストーリー構成、夏の時点では未完だった音楽の全曲揃ってのドラマの厚み、情感豊かな響きに興奮が止まらなかった。『キングアーサー』でオ・ルピナから絶大なる信頼を得た振付家KAORIaliveのステージングが、この『ミセン』でも要所要所で効果を発揮。アンサンブル(オ・ルピナ曰くガッサンブル=神(GOD)+アンサンブル)のしなやかな動きに魅了され、テンポのいいシーン展開に心地よく引き込まれていった。 チャン・グレという青年は、ミュージカルの主人公となるにはあまりに地味なキャラクターだ。そんな彼が不安だらけの第一歩を踏み出し、仲間や上司に励まされ、自分の力を信じて少しずつ前進していくさまを、主演の前田公輝が実に素直に、力みなく表現していて好ましく、新鮮な味わいだ。彼が徐々に笑顔になり、ハツラツと動くところを見るだけで胸が締めつけられるような気分になる。また、脚本の躍進により橋本じゅん演じるオ・サンシク課長の存在がクローズアップされ、存分に心を震わす作品の支柱となっていた。この舞台、グレたちのようなフレッシュマンの共感を呼ぶだけでなく、中間管理職にも絶対に刺さる……!と確信。さらにグレの母を演じる安蘭けいと前田の、母と息子のやりとりが何とも微笑ましく胸に染みて、見渡せば演出家もスタッフも涙をこらえて見つめている。非常に現実的、日常的なありさまが、耳に残る音楽、高揚感あふれるステージングで綴られていき、さまざまな立場の人を刺激する。これまであまり出会ったことのない、斬新なミュージカルの誕生だ。 ひとりでは未生(ミセン=はたしてどう転ぶかわからない弱い石)でも、大勢の力が合わされば完生(ワンセン=完全に生きた強い石)になる。作品に込められたテーマが観客席に届くのはもうすぐ。「必ず観に行きます!」と言っていたリーディング公演の韓国俳優たちも、劇場に駆けつけ、その思いを共有してくれるだろうと期待している。 文:上野紀子 <公演情報> 新作ミュージカル『ミセン』 原作著者:ユン・テホ 著作権者:SUPERCOMIX STUDIO 脚本・歌詞:パク・ヘリム 音楽:チェ・ジョンユン 翻訳・訳詞:高橋亜子 演出:オ・ルピナ 振付・ステージング:KAORIalive 音楽監督・編曲:前嶋康明 【キャスト】 チャン・グレ:前田公輝 オ・サンシク課長:橋本じゅん アン・ヨンイ:清水くるみ ハン・ソギュル:内海啓貴 チャン・ベッキ:糸川耀士郎 パク・ジョンシク課長:中井智彦 キム・ドンシク課長代理:あべこうじ 居酒屋店長/協力会社社長:東山光明 チェ・ヨンフ専務:石川禅 ソン・ジヨン次長/チャン・グレの母:安蘭けい 伊藤かの子、岡田治己、加賀谷真聡、加藤さや香、工藤彩、熊澤沙穂、田村雄一、俵和也、照井裕隆、永松樹、早川一矢、MAOTO、加藤文華(スウィング)、りんたろう(スウィング) 【大阪公演】 プレビュー公演:2025年1月10日(金) 本公演:2025年1月11日(土)~14日(火) 会場:新歌舞伎座 【東京公演】 期間:2025年2月6日(木)~2月11日(火・祝) 会場:めぐろパーシモンホール 大ホール 【愛知公演】 期間:2025年2月1日(土)・2日(日) 会場:愛知県芸術劇場大ホール (C)Yoon, Tae Ho / SUPERCOMIX STUDIO Corp.