勝機をつかんだ「10円シュークリーム」 シャトレーゼが“おいしいのに安い”秘密
「おいしくて、安くて、体にやさしいお菓子」との評判で、大人気のシャトレーゼ。物価高の中でもリーズナブルな商品を実現し、多くのメディアに取り上げられている。一体どのようにして「安さ」を維持しているのか。創業者で代表取締役会長の齊藤寛氏に話を聞いた。(取材・構成:長尾梓、写真提供:シャトレーゼ) ※本稿は『[実践]理念経営Labo 2023 SPRING4-6』より、内容を抜粋・編集したものです。
社員の知恵を結集しムダを削減
↑1個10円で始まったシュークリーム。今でもシャトレーゼの一番人気 2022年春、シャトレーゼは「値上げをしないことへの挑戦」を掲げ、1年間値上げしないことを宣言しました。それだけではなく、一方で社員には2年間で給与を10%アップすることを約束しています。 国内では賃金がほとんど上がらず、物価高騰を理由に大手メーカーが次々と値上げをしている中で、なぜこのような方針を発表したのか。それは、弊社の社是「三喜経営に徹しよう」が大きくかかわっています。 「三喜経営」とは「お客様に喜ばれる経営」「お取引先様に喜ばれる経営」「社員に喜ばれる経営」のことで、弊社ではこの3つの「喜」を大切にしています。 なかでも一番は「お客様」です。物価高のご時世でも、これまで通りたくさんのお客様においしいお菓子を手軽に楽しんでいただきたい。また、企業に賃上げが求められている今、その嚆矢(こうし)となり世の中の期待に応えたい。そうした思いからこの方針を打ち出しました。 もちろん、商品の主原料である小麦粉や砂糖、油、卵、乳製品等が軒並み値上がりしているのも事実です。だからといって、その分品質を落としたり、サイズを小さくしたりすればお客様に喜ばれませんし、取引先や社員に負担をかけることも「三喜経営」に反します。 そこで弊社では、原料以外のムダを徹底的に省き、さらなる効率化を進めています。まず、あらゆる現場のムダを削減し、改善するために社内で広くアイデアを募集。採用されれば効果に応じて報酬が出る仕組みで、社員も積極的に提案してくれて毎月500件ほどのアイデアが寄せられています。 1つの好例としては、カップに入ったプリンを運ぶケースです。以前は中で容器が動かないよう、各ケースの底に枠型のプラスチックトレーを敷いていましたが、ケースそのものに枠をつけることでトレーをなくし、年間1000万円ほど削減しました。 そして今一番力を入れているのは、製造工程における機械化です。単純作業をロボットに任せて効率化すると同時に、人の手が触れる作業を減らせるため、菌の繁殖を防ぐ効果もあります。また、夜間の作業でも活躍してくれるので、今日つくったものを今日販売する「day0(デイゼロ)」が実現できるようになります。 このような取り組みによって新たな発想が生まれており、社員からの提案だけでもすでに10億円ほどのコストカットにつながりました。そして、社内にいい循環が生まれ、会社全体の体質が強くなったことを実感しています。 かく言う私のモットーは、ピンチのときこそ知恵を絞ってチャンスに変えること。かつて大手メーカーに太刀打ちできる商品がなく経営が苦しかった頃、日持ちのしない高級品のシュークリームをあえて手頃な値段で大量に売り出し、回転の早い商品として新たに定着させました。これが大ヒットして現在まで主力商品となっています。 お客様に喜んでいただきたいと考えて、大手メーカーがやらないことに挑戦したからこその成功でした。どんな苦境にあってもお客様を喜ばせることを基本に発想すれば、必ず活路を見出せるはずです。