「台所は腐海と化し冷蔵庫の食材は液状化」鬱が悪化し、ゴミ屋敷で最期を迎えた女性。相続した数千万の行方は?
立派なお屋敷だったのに
入信してからというもの、叔母が暮らす屋敷は信者たちの集会場所と化していた。麗華さん母の言葉を借りると“カルトの巣窟(そうくつ)”だ。信者たちが集っていたであろう客間と仏間、叔父、姪の個室だけは清潔に保たれていた。 麗華さんの母は一度一緒に来たものの、実家の変わり果てた惨状を見て寝込んでしまった。 「思い出深い実家を、カルトの巣窟にされた」 「あの家で自死をするなんて」 「立派な屋敷だったのに、ゴミ屋敷にして」 母は「怒りがおさまらない」と、事あるごとに麗華さんに苦しい心情を語る。 麗華さんは「一体どうなぐさめればいいのか、途方に暮れている」と話す。誰もが穏やかに過ごしたいと願う人生の終盤に、そのような思いを抱えることになるとは、ただただ気の毒だとしか言いようがない。 医療を拒む信仰については、さまざまな沼の体験談を聞くなかで、筆者もたびたび耳にしている。疾患によって奇跡を感じたり、神がかった状態が生まれることも少なくなさそうで、治療しないほうが都合がいいのだろうか。
数千万の遺産をつぎ込んでいた
叔母の入信した教団も医療を拒否していたため、あきらかな精神疾患であったが服薬を頑(かたく)なに拒んだ。そして首を吊った経緯を見ると、心の平穏を求めての信仰であったはずなのに……と、皮肉な結末に思えてしまう。 叔母やその教団がどのような死生観を持っていたのか知るすべもないが、麗華さん家族にとっては悔いしか残らない最期となった。 「叔母にとって信仰が必要だったのはわかります。わかるけど、結果だれも幸せにならなかった。 叔母の懐には祖母の遺産があり、毎日のように集まる場も提供していたので、きっと教団でも優遇されていたんじゃないでしょうか。お布施も数千万はつぎ込んでいたようです。鬱が悪化するまでは、平穏に過ごせていた時期もあるのかな……。でも私と母はいま、とてつもない無力感に襲われています」
問題は終わっていなかった
「誰も幸せにならない」とくり返す、麗華さんの言葉はとても重く聞こえた。 麗華さんの体験は「叔母一家」という関係にも、もどかしさがある。 叔母が信仰につぎ込んでいる財産は実家からの遺産ということから、麗華さん母は無関係ではないが、麗華さんの家庭には影響はない。叔母一家が心配ではあるものの、口出しできる範囲もかぎられている。 友人、同僚、義家族など、関係性は違えど、周りが心を乱されストレスを負うケースは巷に多々あるだろう。本人は「救われた」と感じていても、こうした沼は周りに苦しさを振りまく。 麗華さん叔母の場合は悲しい結末となったが、麗華さん親子からすれば長年の気がかりが終わったというのも本音だった。ところが、だ。しばらく経って、めずらしく叔父から連絡が入った。 叔母のひとり娘である姪も、その教団に入信しているらしいと。麗華さんの悪夢は、いまも終わっていなかったのだ。 <取材・文/山田ノジル> 【山田ノジル】 自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru
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