出生前診断で障害が判明 〝命を選択する〟葛藤、出産を選んだ母 #令和の子 #令和の親
▽出生前診断「真剣に向き合い、カップル同士で考えて結論を」
当時、出産する決断をしたことについて、今改めてどう思うか質問すると、川井さんははっきりした口調で「大変なこともあるけど、娘がいない人生を想像できない」と話す。 出生前診断を巡っては、従来からある羊水や絨毛(じゅうもう)を採取しての検査に加え、2013年に採血するだけで3種類の染色体疾患を判定する「新出生前診断」(NIPT)が導入された。妊婦の高年齢化もあって関心を持つ人は少なくないが、妊娠した場合、受けるかどうかの選択を迫られることになる。 川井さんは「出産する決断をするのも、しないことを選ぶのも、どちらも簡単なことではない」と強調する。どちらの選択をしても、お腹の子の命や人生と向き合うことになるからだ。 川井さんが出生前診断を受けたのは大阪市にある胎児診療の専門医院「クリフム出生前診断クリニック」。出生前診断を経験した当事者による集会が開催され、川井さんも出席したことがある。 クリニックの夫律子(ぷぅ・りつこ)院長は、産むのを諦めるケースも含め多くの家族を担当してきた。「産む、産まないのどちらでも心の底から真剣に向き合い、カップル同士で考えて結論を出すことが大事だ」という姿勢だ。川井さんもその考えに共感している。「産む、産まないのどちらかが正しかったり、間違いだったりするわけではない」と話す。
▽「普通の子と見られたい」娘の障害を隠したことも
川井さん自身は、出産を選択したことを後悔していない。「悩みに悩み、考えに考えた末、産もうと決心した。何が正解かわからず不安でいっぱいの中で命と向き合って出した結論だったが、娘に会えて良かった」と振り返る。 一方、かつて中絶した経験や、久美さんを産むか悩んだ過去から、出産を選ばない人の気持ちが分かる部分もあるという。実は、久美さんを産んだ後も葛藤があった。1年ほどは、親と親友以外には、娘の障害を隠していたのだ。「娘に障害があることを分かって産んだが、それでも周囲に『普通の子』と見られたかった。当時は複雑な思いがあった」と明かす。