欧州委、FBとインスタ調査、「ウサギの穴効果」懸念
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会はこのほど、米メタのSNS(交流サイト)「Facebook」と画像共有アプリ「Instagram(インスタグラム)」に対する調査を開始すると明らかにした。これらサービスが独自のアルゴリズムを使って子供たちのサービスへの依存的な行動を助長している可能性があると疑っている。巨大IT(情報技術)企業に有害コンテンツなどへの対応強化を義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」に違反すると判断されれば、最大で世界売上高の6%の制裁金を科される可能性がある。 ■ 「ウサギの穴効果」、問題点とは 欧州委は、FacebookとInstagramのインターフェース設計が、いわゆる「ウサギの穴効果(rabbit-hole effects)」をもたらしているかどうかを調査する。 これは、ネットコンテンツを閲覧している間にユーザーの興味や関心に基づく情報が次々と表示され、容易にやめられなくなる状態を指す。 その由来は、ルイス・キャロル作の児童小説『不思議の国のアリス』とされる。物語の中では、主人公アリスが白ウサギを追いかけて地面にあるウサギの穴に落ち、奇妙で幻想的なワンダーランドへと迷い込む。 SNSにおける「ウサギの穴」の場合、(1)情報に偏りが生じ、未成年者の関心が狭まる、(2)本来すべきことに集中できなくなり、時間浪費が増える、(3)信頼性の低い情報や誤情報に惑わされやすくなる、(4)常に新しい情報を追いかけることで、不安やストレスを感じやすくなり、メンタルヘルスに悪影響を及ぼす、といったことが問題視されている。 メタなどのサービスでは、13歳未満の利用者はアカウント登録できない。だが欧州委は今回のメタ調査の一環として、同社の年齢確認ツールの有効性も厳しく調べる予定だ。
■ メタ「業界全体の課題、欧州委と協力していく」 ティエリー・ブルトン欧州委員(域内市場担当)は、「メタが法令順守のために十分な措置を講じているとは思えない」と指摘。「私たちは若者を保護するためにあらゆる努力を惜しまない」との考えを示した。 マルグレーテ・ベステアー上級副委員長(競争政策担当)も「私たちは若いオンラインユーザーの安全を確保するためにもう一歩踏み出した。FacebookとInstagramには行動中毒を促進する恐れがあり、メタが導入した年齢確認方法は不十分だという懸念がある」と強調した。 米ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、メタは声明で「私たちは、若い人たちがオンライン上で安全で年齢に適した体験ができることを望んでおり、過去10年間、若者を保護するための50以上のツールとポリシーを開発してきた」と説明。「これは業界全体が直面している課題であり、欧州委と協力して私たちの取り組みの詳細を共有することを楽しみにしている」とし、欧州委に協力していく姿勢を示した。 欧州委は調査にかかる期間について明言しなかった。しかし今回正式調査が始まったことで、当局は、メタに対して幅広い証拠収集を行う権限を与えられた。これには、法的情報開示要求の送付、メタ幹部などの関係者との面談、事務所の査察、などが含まれる。NYTによると、FacebookとInstagramの調査は個別に行われる。 ■ 欧州委「メタは未成年者の弱みや経験不足を悪用」 今回のEU当局による調査は、Instagramや中国発の動画アプリ「TikTok(ティックトック)」などのサービスを規制し、未成年者を守るための世界的な取り組みの一環となる。メタは長年、サービスで提供する推奨アルゴリズムが、巧妙に未成年者を引き付けているとして批判を受けてきた。米コロラド州や米テネシーなどの米国42州・地域の司法長官は23年10月、メタが心理操作的な機能を使って若者に悪影響を及ぼしているとして、同社を提訴した。 欧州委は今回、FacebookとInstagramが未成年者の弱みや経験不足を悪用して、彼らのメンタルヘルスを脅かすような行動依存を誘発する恐れがあると指摘した。欧州委は最終的にメタに対し世界年間売上高の最大6%の制裁金を科す可能性がある。メタの23年における年間売上高は1349億200万ドル(約21兆200億円)だった(決算資料)。
小久保 重信