『ルックバック』チケット料金問題とヒットの理由を紐解く 海外からも熱烈な支持?
『ルックバック』のODS作品としての上映や上映期間を考える
・ODS作品としての上映に批判の声も これまで本稿では本作を「映画」と称していたが、厳密に言えば本作は「ODS(Other Digital Stuff/非映画デジタルコンテンツ)作品」と呼ばれる区分である。主に演劇やオペラ、バレエや歌舞伎などの舞台作品や音楽ライブ、イベントやフェスなどの映像作品がこの部類に入るのだが、過去にも『プロメア』や『海獣の子供』などのアニメ作品がODSに分類されてきた事例がある。 「ODS作品」は一律金額であり、サービスデーや学生割・シニア割などの割引が適用されない。映画のチケット代が一般2000円になった今、一律1700円は一見安く感じるかもしれない。しかし、サービスデーを活用すれば1200円で観られるし、何よりも障がい者割引や学生割引が適用されず、彼らが普段よりも多く金額を払わなければいけない状況に批判の声も多い。1時間未満の上映作品がいつもより高いのであれば配信を待つ、という意見もネット上で散見された。『ルックバック』が「ODS」に分類された理由に、その上位時間の短さが挙げられている。今後何か上映形態に変化が生まれるのか気になるが、本作がきっかけとなり、ODS作品の定義の見直しなどが求められる可能性も高い。 ・海外ファンからの支持も熱烈 チケットの問題を抱えながらも現在国内でヒットし続ける『ルックバック』だが、海外からの熱い視線も見逃せない。7月上旬に開催された北米最大のアニメイベント「Anime Expo 2024」では本作のプレミア上映イベントが行われ、映画をひと足先に観ることができる約300席を巡った争奪戦が起こったほど。即満席になったそうだが、そこには本作を観るために5時間も席を狙って待ったファン、前のパネルから席を確保して動かないでいるファンがいたり、入り口に殺到するファンがいたりと、現場は極めて混乱状態だったそうだ。この熱狂の背景に、2023年にTVアニメが放送された『チェンソーマン』の海外人気、それに伴って藤本タツキの認知度の高まりがあることは想像に容易い。 先行上映もあり、映画批評サイト「Rotten Tomatoes」には少ないながらにレビューも上がっている。AwardsWatchのReuben Baronは「藤本氏のアートスタイルは、荒削りでありながら非常に緻密で、アニメーションに適応させるのは難しい。しかし『ルックバック』は映画として高い品質を維持しながら、原作のざらざらした雰囲気を出せていた」とコメント。続いてPaste MagazineのAutumn Wrightは「本作は暴力や不運な状況、順応性によって失われた芸術へのレクイエムであり、創造における議論でもあります」と評を残した。「Anime Expo2024」では本編終了後のエンドロールで拍手喝采になり、エンドロールが終わるとスタンディングオーベーションになったとか。 北米での『ルックバック』の公開日時はまだ決まっていないが、公開されれば全体の興行収入はさらなる口コミで広がりそうな予感。しかし、本作はAmazon MGMスタジオが製作委員会に名を連ねているため、早々にPrime Videoで全世界独占配信が開始されてもおかしくないのだ。劇場のチケットの値段が問題視されている一方で、配信にすぐ移行する可能性も浮上してきた今、改めて劇場で作品を鑑賞することの意義とチケットの値段、公開におけるフォーマットについてなど、いろいろ考えられることがあるかもしれない。
ANAIS(アナイス)