『ルックバック』チケット料金問題とヒットの理由を紐解く 海外からも熱烈な支持?
6月28日に公開された『ルックバック』が興行で大成功を収めている。公開初日から3日間の興行収入ランキングで1位を獲得し、7月21日までに累計動員数70万人を突破、累計興行収入12億円に迫っている。筆者も2度目の鑑賞のため7月13日に映画館へ赴いたが、21時半というレイトショーに区分される時間帯にもかかわらず、動員数はかなりのものだった。 【写真】京本の4コマ漫画に衝撃を受ける藤野 小学校の学生新聞に4コマを載せている主人公の藤野は、ある日同級生・京本の4コマに衝撃を受け、同時に人生初めての挫折を味わう。自分も絵を上手くなるために努力するが、画力が京本に敵わないと気づくと漫画を描くことをやめてしまった。しかし卒業の日、先生から卒業証書を彼女の家に届けてくれと頼まれた藤野。本作は、そこで初めて顔を合わせる彼女たちが生きた、創作の日々を描く。 確かに思い返せば、2021年7月19日に『少年ジャンプ+』で『ルックバック』が全編無料で公開されたときも、かなりの話題を呼んでいた。配信開始日にTwitter(現X)でトレンド1位を獲得、配信から24時間でアクセス数250万を突破。そこまで話題性が高かった点も本作がヒットした理由と十分に言えるだろう。しかし、果たしてそれだけなのか。 ・映画化の懸念から口コミでの広まりへ そもそも本作の映画化が発表されたとき、反応はポジティブなものだけではなかった。なぜなら少女たちが2人で若き漫画家を目指す『ルックバック』そのものが漫画というフォーマットで創作されたことに意味があり、静止画で表現される“動”が息を呑むほど美しかったからである。 映画好きを公言する作者・藤本タツキの作品はこれまでも“映画のような”と表現されることが多い。同じ絵柄のコマを連続させて描くことでコマ内に流れる時間を強調させ、まるで映画のストーリーボードのように描く特徴があるのだ。しかし映像的な魅せ方をする静止画を実際に映像にしてしまうのはどうなのか。映画化が発表されたとき、「漫画だからこその作品の良さが薄れるのではないか」「あの感動をしっかり映画というフォーマットで描くことは難しいのではないか」という声がファンから上がっていた。 しかし、それらの懸念があった中で公開後の評価は極めて高い。特に映像になったからこそ加わった要素――、河合優実と吉田美月喜の声の演技、音響・音楽がシーンにもたらす効果が大きな要因のように感じる。加えて映画の上映時間は58分と短いながら、監督の押山清高と彼が率いるアニメーターチームが作品に向ける情熱、丁寧さを余すことなく感じられるため、映像体験としては満足度が高い。原作者の藤本も公開後のヒットを受け、「『キャラクターに命が吹き込まれる』みたいな表現がありますが、本当にその通り、藤野と京本が生きている世界をカメラで見ている感覚でした。それくらい作画や声優さんの芝居が自然で、素晴らしいものでした。自分の作品に対してここまで真摯に作ってもらえる事が人生でもうないのではないかと思い泣いてしまいました」と公式コメントを発表している。 作者からの推薦にとどまらず、さまざまな著名人のコメントが公式SNSから発表されている点も、話題作りや口コミの広まりに貢献している。スタジオジブリの鈴木敏夫を筆頭とするアニメーションに携わる者、漫画家、美術関係のプロからドランクドラゴンの塚地武雅などのタレントまで、その人選は幅広い。製作陣のその真摯さが伝わり、口コミで作品の良さが広がった『ルックバック』。1時間以内で観られる手軽さも、劇場に足を運び易い理由になっているかもしれない。実際、短いゆえにスクリーンあたりの1日の上映回数も多く、効率的に興行収入を稼いでいる印象もある。7月12日からは追加上映劇場が増え、さらなるヒットが見込まれる。しかし、その一方で取り沙汰されるのは、チケットの金額問題だ。