1周年を迎えた ChatGPT 、この1年の歩みをまとめる
AIへの投資が加速
ChatGPTは、AI投資を増やすゲートウェイドラッグでもある。ガートナー(Gartner)が今年2023年に2500人の経営幹部を対象に行った調査では、回答者の45%がAI投資を増やす理由にChatGPTの人気を挙げた。「ChatGPTがこれほど影響しているのは、ジェネレーティブAIを利用しやすくしたからだ」と、ガートナーのアナリストであるニコル・グリーン氏は説明する。同氏は、「ジェネレーティブAIの市場浸透率が2年前には1%未満だったのが、2023年の夏には5%から20%のあいだを推移している」と指摘する。 「あるテクノロジーが真にどのような影響を及ぼしているのかは、『これが登場する前はどうしていたか?』とふと振り返るまでは考えもしないものだ」とグリーン氏は語る。「スマホでインターネット検索をしなかった時代を今や想像できるだろうか。ジェネレーティブAIは新興テクノロジーを巡ってこれまでも見られたハイプサイクルに従って進んでいる……ハイプサイクルに従ってはいるが、速度がとてもはやい」。
企業の取り入れ方は
早期にChatGPTを取り入れた企業では、すでに結果を出しているところもある。フィンテックおよびeコマースを扱うスウェーデン企業のクラーナ(Klarna)は、ショッピング体験を自分好みにカスタマイズできるプラグインを作成したが、今では週に約2万件のクエリが実行されている。LLMに基づくセマンティック検索のおかげで、クラーナは服、アウトドア用品、ペットケア用品などの各種人気カテゴリーにおける消費者の意図と、検索のタイミングをよりよく理解できるようになったという。 たとえば、ChatGPTのクエリにエレクトロニクス関連のものが多いのは就業時間開始前の朝7時、服のショッピングは一日を通して一定で、ペットケア用品の検索は午後にピークを迎える。「コンバージョンなどは見ることができないが、今ChatGPTからどのような検索が行われているかは見ることができる」と、クラーナのエンジニアリング担当ディレクターのマーティン・エルウィン氏は語る。「それが製品データベースにとって何を意味するかというと、今後さらに自由な質問に対応していけるようにすることだと考えている」。 2022年秋に言語学習アプリのデュオリンゴ(DuoLingo)がオープンAIのLLMを試しはじめたとき、ChatGPTやGPT-4はコンテンツの制作や、テキスト・音声でのレッスンに使用する教育ツールなどの迅速な新製品開発に活躍した。デュオリンゴのAI責任者兼AI研究ディレクターのクリントン・ビックネル氏によると、「学習者とその学び方について学ぶ」こともできたそうだ。 「あのような機能をリリースするのは、最低でもかなり時間がかかっただろう。最終的には実現そのものが現実的に不可能だったのではないか」とビックネル氏は話す。「だが、今では小規模なチームが(会計年度の)四半期もかからずにできている。このスピード感の向上は、このようなツールを利用できるおかげだ」。 以下はChatGPTに関するこの1年の主な出来事だ。よかったことも悪かったこともそれ以外のことも合わせて見ていこう。 1月:マイクロソフト(Microsoft)がオープンAIに数十億ドル(数千億円)規模の投資を行い、幅広い協力関係を結んだことで、ChatGPTおよびジェネレーティブAIを巡る新たな関心が一気に高まった。 2月:ChatGPTの公開後わずか2カ月、オープンAIは有料版のChatGPT Plusを発表。月額20ドル(約3000円)で、高速な反応速度と新機能への早期アクセスなどが得られる。 3月:オープンAIがChatGPT用の新APIと音声認識用AIモデルであるWhisperを公開。同時にスナップ(Snap)、インスタカート(Instacart)、Shopify(ショッピファイ)との提携も発表された。数週後、オープンAIはエクスペディア(Expedia)、カヤック(Kayak)、クラーナ、Slack(スラック)、オープンテーブル(OpenTable)、ザピアー(Zapier)などの大手ブランドが名を連ねるChatGPT用の各種新プラグインを発表。その一方で、ChatGPTがさまざまなトピックで「事実に反した話」を後押しするような誤情報を広めている100件以上の例を、研究者たちが報告した。 4月:ChatGPTの誤情報と「ハルシネーション」(幻覚)の問題に対する懸念が高まるなか、オープンAIがAIの安全性に対するアプローチを発表。最新モデルGPT-4が、GPT-3.5に比べて事実に基づいた回答を返す可能性が40%向上しているとも指摘した。 5月:オープンAIの共同創業者でCEOのサム・アルトマン氏が、上院で初めて開かれたAIに関する公聴会で米国議会デビューし、AIのリスクに関する議員のさまざまな質問に答え、政府規制に関する自身の考えを語った。2日後、ChatGPT Plusの契約者に対するGPT-4への早期アクセス提供など、数々の新機能を備えるChatGPTの新しいiOSアプリがAppleのApp Storeに登場。ネクストドア(Nextdoor)との新しいパートナーシップも発表された。 6月:ChatGPTに初めての利用減少が見られ、初夏に迎えた停滞期にWebトラフィックが10%減少した。同月、ChatGPT関連の懸念が2件の訴訟に発展し、オープンAIのデータ収集とコンテンツ制作が著作権法およびプライバシー法に違反していると訴えられた。 7月:オープンAIをはじめとする企業(アンスロピック、Google、Amazon、マイクロソフトなど)がホワイトハウスとの会談でAIに関して高まる懸念に答え、倫理的な開発に関する各社の計画について話し合いが行われた。同月、オープンAIは「フロンティアAIモデルの安全かつ責任ある開発」を目指す業界団体であるフロンティアモデルフォーラム(Frontier Model Forum)の設立メンバーになった。また、アメリカンジャーナリズムプロジェクト(American Journalism Project)と新しく提携したことも発表し、地方ニュース組織でのAI使用に対し500万ドル(約7億5000万円)を超える支援を約束した。 8月:オープンAIは同社のLLMを使用し、企業用に新しいセキュリティおよびプライバシー保護機能を備えた企業版ChatGPTの提供を開始した。 9月:新しいマルチモーダル機能により、ChatGPTで「見る」「聞く」「話す」方法が新しく追加された。数日後にはついにインターネットの閲覧もできるようになったことが発表された。 10月:同じプラットフォーム内で直接画像を生成できる新しい方法として、テキストに基づいて画像を生成するDALL-E 3がChatGPT PlusとChatGPT Enterpriseに追加された。同月、バイデン大統領のAIに関する大統領令署名を前に、オープンAIはほかのフロンティアモデルフォーラムのメンバー企業と共にAIの安全性を目指し、さらに1000万ドル(約15億円)を拠出した。 11月:オープンAIが主催する初の開発者会議「DevDay」が開催され、ChatGPTのカスタムバージョンを簡単に構築する新しい方法が公開された。月後半には、同社の取締役会がアルトマン氏と共同創業者グレッグ・ブロックマン氏を突然解雇し──そして呼び戻そうとするする──劇的な一週間があった。また、ChatGPTが書籍から情報を収集してその内容に基づいて回答を作成することで米国の著作権法に違反しているという新たな訴訟も起きた。 [原文:ChatGPT turns a year old, marking a major milestone for generative AI] Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)
編集部