車いすユーザーの声は「わがまま」なのか? 当事者に車いす席の知られざる実態を聞く
<映画館での車いす席利用はそんなに不便なの? 車いすユーザーに率直な疑問をぶつけると、日本では法律の下「とりあえず規定の数を設けているだけ」とも思える状況が浮かび上がった>
3月半ば、車いすユーザーの女性が都内の映画館で鑑賞する際、従業員にリクライニングができる席に移乗する介助を頼んだところ、鑑賞後に従業員から「この劇場はご覧の通り段差があって危なくて、お手伝いできるスタッフもそこまで時間があるわけではないので、今後はこの劇場以外で見てもらえるとお互いいい気分でいられると思う」と言われて「すごい悲しかった」と、映画館の名前と共にX(旧ツイッター)に投稿。 【グラフ】年代別、テレワーク移行による仕事満足度の変化 これを受けて映画館側は「不適切な発言」を謝罪したが、ネット上では映画館の従業員に介助を求めるのは「行き過ぎだ」「わがまま」との声が上がり、炎上する事態となった。 4月1日には改正障害者差別解消法が施行され、これまでの行政機関に加えて、民間事業者にも障がい者への「合理的配慮」の提供が法的に義務化される。政府によれば、合理的配慮の提供とは、「個々の場面で障害のある人から<社会的なバリアを取り除いてほしい>という意思が示された場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、バリアを取り除くために必要かつ合理的な対応をする」ことだという。 ただし、事業者側に「負担が過重」な場合は除外され、一方で「過重な負担」かどうかの判断は明確にはされていない。 映画館など外出先での「車いす席」の利用について、当事者は普段からどのように感じ、行動しているのか。車いすユーザーから見た、当事者側と、社会側にある「バリア」とは。車いすユーザーの住環境整備や、外出する機会の創出に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボの代表理事で、自身も車いすを使って生活している大塚訓平氏(次ページ写真)に、本誌・小暮聡子が聞いた。 ――今回、車いすで映画館を利用することについて、当事者が声を上げたことで見えにくい状況が可視化された面がある。これまで、車いすで映画館を利用するに当たって、困ったことやハードルに感じたことはあるか。 僕が映画館に行く際には妻と一緒なので、そもそも不便さはあまり感じていないけれど、「車いす席」はシアターによって設置位置、作り込み方が違う。一度、最前列の車いす席で観たとき、スクリーンが近すぎて、見上げながら鑑賞しなくちゃいけなかったから、首と肩が凝って、映画鑑賞後に気持ちが悪くなってしまった。 というのも、人によって乗っている車いすに違いはあるけど、僕のは背もたれが腰くらいまでしかなくて、一般座席のようにもたれかかることができないから、長時間車いすのままで映画を観ること自体がかなり身体的に苦しい。 もちろん、車いす席を用意してくれていることは有難い。だけど、そこが本当に観やすいどうかを、検証した上で設置したとは言い難い状況のシアターもある。単純に、車いすで安全にアプローチできるスペースだけが用意されている、という印象の作り方が多い。 ――車いす席というのは、座席がなくて、スペースがあるだけということか。 そう、そこの区画が柵で囲われているような感じだ。そして大抵は一箇所に固まって2、3席分のスペースが確保されている。従って、一般の方のように前方・中段・後方や、左側・右側・真ん中など、観る席を自由に選択することができない。あとは一般席のようにドリンクホルダーが設置されていないことが多いから、映画を観る時に 「ポップコーンにコーラ」もゆっくりと楽しめない。 だから僕の場合、車いす席は買わずに、シアター内の真ん中に伸びる通路沿いの席のチケットを買って、車いすからその席に自分で移乗する。そして、車いす席のスペースに自分の車いすを置かせてもらっている。チケットを買うときにスタッフの方に、「一般席で観たいのですが、自分の車いすを車いす席のスペースに置いてもいいですか」と確認している。仮にそこに車いすを利用する人が来た場合には置けなくなるので、通行の邪魔にならないところへの移動をお願いすることになるだろうし。 ――シアター側は、そうする上での規則がなくても、善意や合理的配慮というもので対処しているということか。 規則の有無は分からないけど、その状況ごとに対応してくれているのだと思う。僕の場合はシアターで従業員の方に車いすの介助をしてもらったことはないけど、ドリンクを持ってきてもらったことはある。ドリンクを持ちながら車いすをこぐというのはかなり難しい。 シアター内に毛足の長い絨毯が敷かれている場合、車いすが右に左にと流れていってしまい、まっ直ぐ進むのが難しいので、力強くこがなければならない。過去に一人で映画を観に行ったときには、お店の方に「席まで持ってきていただくことは可能か」と伺うと、快く持ってきてくれた。 ――一般の席に移動するときは、同伴者などに手伝ってもらっているのか。 僕は自分ひとりで乗り移れてしまうので、誰かに手伝ってもらうことはない。自分の場合は、段差のない席であれば一般席でも一人で利用できる。車いすは妻に、車いす席のスペースまで持って行ってもらう。でも、自力で一般席への移乗が難しい人、また自分の車いすからは降りたくない人からすると、今後車いす席の在り方や作り方をアップデートして欲しいという声が多く挙がりそうだ。 例えば同伴者が健常者だった場合、車いすスペースにパイプ椅子みたいなものを持ってきてくれるので一緒に観ることはできるが、これを以前に妻と一緒にやったときには、彼女は「辛い」と(笑)。一方で、車いすスペースのすぐ隣に同伴者用の一般席を設置しているシアターであれば、すぐ横の一般席を一緒に買えばパートナーと隣で観ることができる。そういった配慮がなされていくのが本来は理想だと思う。 アメリカのニューヨーク・タイムズスクエアの映画館のサイトを見ると、車いす席はスクリーンに近い方が良い人と、後ろから観たい人、そして左右、真ん中と選択肢があり、同伴者も隣の席を使用できて素敵だ。